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夜明け



「……腑抜け共は下がっていろ」


誰かがそう言うと村人達は道を開けた。すると、強そうな男が二人、こちらへ歩いてきた。そして、俺たちと向かい合うと村人達はホッとしたような表情を浮かべた。


「牧野さんと大久保さんなら……」

「……牧野さん!大久保さん!やったれ!」

「………ふむ…只ならぬ気……お主強いな」

「確かに、強敵だな」


牧野と大久保はそれぞれ、大太刀と薙刀を構えた。


「儀式を邪魔した報いを受けるのだな」

「お前らは強い……が」

「「勝つだけなら簡単だ」」


偶然にも、俺と蛇は同時に同じ事を言った。牧野と大久保は眉をひそめた。


「簡単…だと?」

「舐められたものだな」


薙刀を持つ大久保は俺に向かって、大太刀を持つ牧野は蛇に向かって突っ込んで先制攻撃を仕掛けてきた。


「……やはりな」

「…俺たちの勝ちだ」


その瞬間、俺は呼吸を整えて思い切り大久保を木刀で面打ちし、蛇も俺と同時に牧野を水平に斬りつけた。だが、大久保はすかさず回避し、牧野は斬撃をガードした。


「ふん……これしき…通じなッ!?」


しかし、大久保は回避した瞬間に仰け反った。そして、膝から崩れ落ちるように倒れた。


「う…おおッ!?」


牧野は無数の斬撃に襲われ、地面に膝をついて倒れた。


『……蛇のあの斬撃……一見…一太刀に見えるが……違う………()()()()()()()()()()()()()()()()()…すなわち神速で斬ったという事か…』

『………田中の面打ち…気を溜めて放った割に斬るつもりがない様に見えた…恐らく……田中は木刀の斬撃が放たれる瞬間に()()()()()()程の速さで振ったのだ…振るのを見ただけの大久保は回避し…安心した刹那…()()()()()の斬撃が放たれ…沈んだ…』

「なッ…そんな馬鹿な…」


村人達は動揺している、まぁ、村一番の強さの奴が敗れたらそうなるか。


「勝てるはずがねぇ…」

「コイツら人間じゃねぇよ…!」

「亜坐斗子様以前に、俺ここにいたら俺たちも殺られちまう!」


村人達は村長を置いて一目散に逃げていった。村長は眉間にしわを寄せ、怒りを押し殺している。


「……貴様ら…」

「桜郎は返してもらおう」


すると、村長は村人が落とした刀を手に取り、構えた。


「……亜坐斗子様を前にして…村の民を襲い……あまつさえ愚弄するとは……祟りが起きても知らんぞ…」

「あ、そう」

「まぁ…その前に……かつて[刀魔]と呼ばれたワシに斬られるがな」


俺は村長を無視して桜郎を連れ戻そうと祭壇に近付いた。


「愚か也!!」



……



「う……ぐ………」

「目覚めたか」

「…ッ!……蛇!…田中殿!」


桜郎は目が覚めたようだ、起き上がって周囲を見回した。


「…ここは…」

「村の外れです…」

「………村の者は…」


俺は桜郎が寝ている間の事を話した。一応、言っといた方が安心するかもしれないからな。


「………そう…か…」

「お兄さん!」


村から俺たちを助けてくれた子供が走ってきた。


「……まさか…本当に助かるなんて…」

「言った通りだろ?…それで…村の奴等は?」

「…………殆どの人が家に逃げて怯えていました…バケモノがいる…と言って…」


バケモノか、まぁ、悪くは無いな。


「……多分…もう儀式は無くなると思うぜ」

「…え?」


子供は目を丸くして、俺の方を見た。


「…村長には喝を入れといたからな」



……



“…邪魔だ”

“ぐわッ!”

“………村長さんよ…もう人を傷付ける儀式なんてすんなよ”

“………亜坐斗子様が…お許しにならないぞ……!”

“そんじゃあ…亜坐斗子に言っとけ…「文句があるんなら田中実に言え!」…とな”



……



「……あれで喝を入れたとは思えんがな」

「だから一応お前に警告しておく、マトモな奴等だけでこの村を離れ、変な奴等のいない遠くの村か街で暮らした方がいい」

「…………はい…確かにそうした方がいいかもしれませんね…」


子供は俺たちに一言「ありがとうございました」と言って去っていった。


「……ものの考え方は人によって違う…だが……無意味に自分以外のものを傷付けるのは駄目だと思うんだ……狩猟とか…身を守る為とか…意味がある事ならまだしもな」


俺は村を見ながら言った、村は静まり返っている。そういえば、あの子供の名前、聞いてなかったな。無事出られたらいいがな。


「……田中殿…」

「ミノルだ」

「え…?」


俺は自身の名前を言った。


「……田中殿なんて呼ばなくとも…ただ……ミノルだけでいい」

「…そうか」


俺たちは夜明けの朝日が昇るのをただ、眺めていた。













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