トラブル、それは唐突に
「なんだと…!?」
この世界は俺たちのいたライド大陸、レイド大陸のあるテオロンではなかった。
[地球(武器有)]
日本で一般人でも武器の所有が可能で、決闘なども可能になっている[地球(本線)]の並行世界。この世界の日本には本線と比べて、異質で、奇妙な風習や文化が根付いている。
「……並行世界…」
「…異界…というわけか…」
「……………道理で見たことの無いものがあった訳だ…」
地球の並行世界、どうやらこの地球の日本には銃刀法違反が無いらしい、物騒な事だ。それにしても、俺達は武器を持っていたのに警戒されなかった理由はこれか。
「…して……この異界をどう出ようか…」
「……最悪の場合はこの世界で暮らすことになるな…」
俺たちが出る方法を考えていると下の階から、オッさんの呼ぶ声が聞こえた。
「晩御飯ができたぞ!…食うか?」
「ああ」
「……まずは腹ごしらえだな…」
部屋から出て、俺たちは居間に向かった。食卓の上にはご飯が並べられている。
「……おお!…これが異界の飯か!」
「冷めないうちに…」
「戴きます!」
桜郎はお腹が空いていたのか、食べようとして、箸を持った。オッさんはそれを見て、無機質な笑みを浮かべている。
「……蛇…」
「………うむ」
蛇は桜郎がご飯に手をつける前に食卓から離した。桜郎は目を点にしている。
「ど…どうしたのだ?」
「……お主…飯に何を盛った…?」
その瞬間にオッさんは俺に何か煙玉のようなものを投げつけた。
「くッ!」
この匂いは、睡眠薬か。くそ、まさかこんな事になるとはな。
「テメェ!」
その刹那、俺の後頭部に激痛が走った。俺は倒れて、意識が飛びそうになったのを堪えた。
「……お主ら…」
ぼんやりとする意識の中、蛇は桜郎を守ろうと刀を抜いた。しかし、蛇もこの狭い部屋で刀を振れるはずもなく、スタンガンらしきもので攻撃され、倒れた。
「蛇!…田中殿!」
「…こっちへこい」
「離せ!」
桜郎の腕を男が引っ張っている。桜郎は必死に抵抗するが、平手打ちを食らい、どこかへ連れていかれた。
「…さ……桜郎…様……ッ…」
「……ッ…クソ…」
そして、俺は意識が無くなった。
……
「…………田中…」
俺を呼ぶ声が聞こえ、俺は目が覚めた。目が覚めると腕と足に何か異物感を感じた。見てみると手には手錠、足には足枷がしてある。
「………やられたな…」
「……すまぬ…某が不甲斐ないばかりに…」
「誰のせいでもない……んっ…」
手錠は自力で外せそうにない、無論、足枷も。
「……とりあえずここを出て桜郎を助けないと…」
「…うむ……」
すると、牢屋の外、上の階から子供が走ってきて、突然牢の扉を開けた。
「……大丈夫ですか…?」
「だ…誰だ…」
「僕は…敵ではありません……」
子供はそれだけ言って俺たちの手錠と足枷を外してくれた。
「……童…何故助ける」
「………姉さんを奪った……あの風習の…犠牲者を少しでも減らしたいから…」
「風習だと?」
俺が風習について尋ねると、子供は小さな声で、恐怖を押し殺すように語った。
「この村には[亜坐斗子]と呼ばれる神様が祀られてて……月に一度…二十歳くらいの女の人か…子供が贄として捧げられるんです……僕は…それで姉さんを失いました……」
「……異質で奇妙な風習…これのことか…」
この村、どうやらとんでもない闇を抱えてるようだな。
「……それで…今度は…僕の番なんです…さっき運ばれてきた子と一緒に……今日…贄にされる………だから…せめて……儀式のあとに殺されるあなた達だけは助けてから……贄になろうと…」
子供は震える声でそう言った。すると蛇が子供に尋ねた。
「儀式とやらは…まだなのか?」
「……あと数分後です…儀式が始まれば……逃げてください……」
そう言って子供は見取り図を俺達に渡した。どうやら、ここは村長の家らしい。
「桜郎は?」
「……桜郎……あの子の事ですか?……だとしたら……あの子は…儀式の間にいます……しかし…もう助かりません……」
子供は涙目で、震えていた。俺は震える子供に尋ねた。
「要するに…見捨てる……って事か?」
「……………」
俺の問いに、子供は何も言わず、静かに頷いた。
「…助けてくれた事は感謝する…だが…俺達は桜郎を助けないといけない」
「そんな!…危険です!」
子供は焦って、必死に俺達を引き止めた。
「…村中の人たちが来る…それに村長の付き人は剣術の達人だ!…絶対殺されちゃう!」
「……大丈夫だ……よし…儀式の間…か…」
「…童……狩りを終えれば…改めて礼を言う……ここでしばし待たれよ」
俺達は牢を出て、上の階へ上がっていった。
「そ……そんな……止められなかった…」




