アサナトの正体とは
「……化けの皮剥いでやるよ」
俺はアサナトらしきものに向かって走っていった。そして、追い付くと揺らめく布を引っ張った。すると布の下にはブラッドゴブリンがいた。
「ギェギ!?」
「さっきのゴブリン!?」
「………やっぱそういう事か」
爪で斬りかかってくるブラッドゴブリンを斬って、俺は布を確認した。
「…それは……」
「これがアサナトの正体だ……美しい刺繍のされた……ポンチョだ」
布は純白で美しい刺繍のされたポンチョだった。
「……ふむ…見事な刺繍だな……まるで職人の創作した工芸品の意匠のような…」
「………恐らく…高名な職人が創ったもの…」
「…そう……恐らくこの美しいポンチョを拾った空腹なゴブリンがこれを餌に人を誘い……喰らった…」
推測だが、空腹なゴブリンがポンチョを拾って、人間を誘い込んで喰らった。そして、偶然そのポンチョを目撃した人が揺らめくポンチョを動物と勘違いして話が広がった。
「………そうしてあの人喰いゴブリンが誕生したと…」
「ああ…多分な…………しかし…まさかアサナトの正体が生き物ですらなかったとはな」
俺たちはポンチョを眺めていた。
……
「……サイズがちょうどいいな」
「盗まれぬように気をつけるのだぞ」
「絶対盗ませないから安心しろ」
俺はポンチョを着て森を抜けた。そして、平原に出て、少し歩くと大きな山々がぼんやりと見えた。
「……まるでテレビで見たアルプス山脈だな…」
「綺麗だな…」
「…………あの山を越えた先がアルトリアだ」
アルトリア、レクスが国王の国だ。四つの国の中でも結構技術が進歩している国だ。電化製品もあったような気がする。だとしたら結構ではかなり技術進んでいるな。
すると後ろから、馬車の音が聞こえた。その馬車は俺たちが前にいるのにもかかわらず、速度を緩めない。
「うお!」
「…桜郎様……!」
俺は急いで避けた、蛇も桜郎を抱いて避けていた。すると馬車が止まり、鎧を着た騎士が俺たちに叫んだ。
「下民がマラ様のお乗りになる馬車の前に立つなどと…おこがましい!」
「なんだお前」
いきなり突っ込んできて謝りもせずに、あまつさえ下民呼ばわりされたのだから俺は思わず声に出した。すると桜郎が俺のポンチョを引っ張り、小声で言った。
「やめるのだ、田中殿」
「ああ?」
「……避けられる争いは避けるべきだ…」
「……………」
俺は桜郎がそう囁いたので、桜郎に免じて怒りを鎮めることにした。
「……フンッ」
そして、騎士は馬車に戻り、その馬車はアルトリアの方角へと進んでいった。
「……すまぬ…田中殿……よく怒りを抑えてくれた…」
「なんだよアイツは…」
「貴族だ」
馬車を睨んでいる俺に蛇が言った。
「…貴族……」
「貴族は自分が貴き者と考えし者が多い……それ故…あのような態度を取るのだろう…」
「……どの世界にも…クソ野郎はいるものだな」
貴族か、たしかに貴族は大柄で、横暴で、自己中で、怠慢なクソ野郎のイメージがあるが、本物を見るとやっぱり違うな。ここまでクソみたいな奴だとはな。
「……まぁ…先へ進むか」
「…………ああ」
俺たちは再び歩き出した。歩いていると、大きな岩や、小さな廃屋があったりした。それはいいが、さっきから何かもやもやする。
「…………妙だな…」
「どうしたのだ?」
「…いや……気のせいかも…」
また少し歩いて俺は後ろを見た。その時、俺の疑問は確信に変わった。
「……なぁ…俺たちはあの小さな廃屋の前………何回通ったんだ?」
「…………三回ほどは通ったな」
どうやら、俺たちはループしているらしい。だか、一体何故……
「……このまま歩いていてもキリがない…一回休んでこの空間から出る方法を考えよう…」
「…それもそうだな」
俺たちは大きな岩の前で休む事にした、少し遠くには廃屋が見えている。
「………さて…どうやったらこの空間から出られるか…」
「そもそも何故……こんな事に…何者かが作ったのか?…だとすれば何故このような事を……」
ループするこの空間の謎は深まるばかりだ。誰が、何故、どうやってしたのかが分からんからな。
「……一度…あの廃屋を調べてみよう…何かあるかも……」
「……………ふむ…ここに居ても何も変わらんしな…」
「それじゃあ、廃屋に行くのか?」
「まぁ、ヤバそうだったら逃げるけど」
俺たちは廃屋の前まで行って廃屋を眺めた。
「…大体……こんな場所に廃屋があるのはおかしいよな…」
「…………桜郎様…離れていてくだされ」
俺と蛇は桜郎を離れさせて、同時に扉を蹴り破って、中を確認した。
「なんだよこれ…」
「摩訶不思議……」
「これは…」




