笑う死神
「君の命は僕が握ってるわけだ…!」
「何故…私の位置が分かった…」
困惑するアリアが少年に尋ねると、少年は不敵な笑みを浮かべ、アリアの耳元で説明した。
「……エコーロケーションって知ってる?」
「…なるほど……反響…か……」
「そっ!……君は自身の出す物音を消したから聴覚を無力化したって言ってたけど……そうじゃない………君は僕の視覚と一緒に聴覚も奪うべきだったんだ……」
コウモリなどは反響定位を使うとされる。反響定位とは、超音波を発してその反響で周囲の状況を確認する事である。
「……僕は超音波は無理でも音の反響なら感知できるからね…それで君の位置を把握したんだ!」
「だから…聴覚も奪った方が良かった……ということか…」
「しかも今の時間で視力も回復したしね!」
「バケモノが……」
アリアは冷静になり、少年の実力を見誤った事を後悔した。そして、思い切り飛び上がると、背中を地面にぶつけた。
「危ないなぁ…」
「お前の実力を見誤っていた、まさかエミリアの他にも悪魔がいたとはな」
少年は地面に激突する前にアリアから離れていたのだ。そして、仰向け状態になっていたアリアはゆっくりと起き上がった。
「……………」
「……本気になったようだね」
アリアは黙り込むが、鎧越しでも分かる程脱力し、鎧の隙間からは強い殺意が漏れていた。
「…良いねぇ……好きだよ…こーゆーシチュエーション…!」
「……………」
「お互いに…死が纏わり付いている状態……即ち命と命を賭けた殺し合い…!」
ハイテンションでそう言った少年は興奮しているのか、頬を染めていた。
「……………」
「なにか反応してよ……僕が独り言を言ってるみたいで恥ずかしいじゃん……」
アリアは少年の言葉を無視して剣を構えた。そしてその瞬間、5m先にあった剣先は一瞬で少年の喉元まで来ていた。
「疾いね!」
「………死ね」
アリアの突きを少年は軽く避けた、だがアリアはそれを知っていたかのように少年に向かって水平に斬りかかった。
「分かっていたさ……!」
「…それじゃあ……少しだけ本気出しちゃおっかな〜!」
少年は刃が己を斬る間際にアリアの腹へナイフを刺した。鎧を貫通してナイフはアリアの肉体へと刺さった。
「……はい!…終わり!」
「…なに……?」
腹に刺さったナイフを少年は抜く、ナイフが腹に刺さったダメージ。それは歴戦の猛者であるアリアにとっては指を切った程度であった、しかし……
「…一体……ッ!!………貴様…何故その魔法を…!!………うぐッ!!」
アリアはその場で地面に引き寄せられるように膝をついた。そして、少し耐えていたものの、その場でうつ伏せになった。アリアの身体は地面にめり込んでいる。
「………その魔法…なかなか味わい深いものでしょ?……ゆっくりと味わってね!」
「うぐぉぉ!!…貴様ぁ!!」
「あ!…そうそう!」
そして、少年は何かを思い出したのか、アリアの目の前に屈んで言った。
「……君は目潰しをしたり…僕の身体を切り刻んだね」
「…ッ……」
「残念だけど、目潰しも含めて君の攻撃全く通じてないから!」
アリアは絶句し、呆然と少年を見つめた。少年は変わらずニコニコと笑顔を浮かべていた。
「……なッ……に…!?」
「あんな斬撃痛くも痒くも無いし…目潰しなんて効かないけどハンデとして目を瞑ってたからね……それでも適当に考えた作戦で勝っちゃったけどサ!………この傷も治しておくか!」
少年はアリアの目の前で、掌を胸に当てた。すると、切り傷が凄まじい勢いで回復していった。
「……その馬鹿げたスピードで傷を癒す回復魔法は…【神癒ノ息吹】…!……馬鹿な…それを扱えるのは世界でも数人……貴様…まさか!!」
「それじゃあね!……また…弱かったら優しく相手してあげるよ……アリア…」
「…待てッ…ェ………!……」
アリアは地面にめり込み気絶して動かなくなった。そんなアリアを歩いてきた伍城が地面から引き抜き、地面に寝かせた、生命活動は維持していた。
「……やり過ぎだ」
「ごめんごめん!……少し昂ぶっちゃった…」
「…ライド大陸……お前の魔力を感知して来てみたが…荒れているな……」
「そうだね…ホントこの灰の土地はいつか緑にしたいよ……しかし魔王は…一体何を企んでるのかな…?」
「…………さあな」
少年と伍城は薄っすらと見える魔王城を見つめていた。魔王城というよりも、魔王城のその奥、深淵に渦巻く得体の知れない何かを。
「さて…魔王城散策も終わったし……あの美味しい粉雪アイスを食べに行こうか」
「……粉雪アイスのあるハイランド王国はここから1000km以上あるがな」
「良いじゃん!…移動系魔法もあるし……僕達だったらすぐだよ!」




