見ざる、聞かざる、感じざる
「……何者か!」
「うわぁ!……ビックリしたなぁ…もう!」
「…エミリアと……外見も気も酷似している…が……性別が違う…!?」
「エミリア?……僕を追ってきたんじゃないの?」
互いに困惑するアリアと少年、らちがあかないので少年はアリアに尋ねた。
「………君…もしかして……」
「……貴様からエミリアの気配を感じ取った…私はエミリアという人物を斬りたいと思っていてな…駆け付けたわけだ…だが……他人の空似だったようだな」
アリアは少年に背を向けると抜いていた剣を鞘へ納めた。
「人間…こちらの勘違いであった…すまぬ……詫びとして本来は人間を見つけ次第切り捨てるが…見逃してやろう……」
『ふん……こんな場所へエミリアが来る筈も無かろう……まさか人間の子供とエミリアを見間違えるとは…私も堕ちたものよ』
そう言い残しアリアが立ち去ろうとした時、少年はハッとなった。
「……やっぱりあの時の魔族か…」
そして、少年はアリアに聞こえるように、それでいてボソッと内緒話をするように呟いた。
「…………エミリアを斬り殺したいとも思うよね〜……あんな勝ち方されたら…」
「……………お前を見逃すわけにはいかなくなったな…」
アリアは溢れ出す殺気を纏い振り返った。少年は笑顔でアリアを見つめた。その笑顔にはどこか不気味な何かが渦巻いていた。
「…何故その事を知っている?」
「さぁ?」
少年は嘲笑うかのように首を傾げた、それを見てアリアは拳を握る。
「……そうか」
そしてアリアは腰の剣を抜いた、少年もそれを見て腰にあるナイフを抜く。
「………エミリアであろうとなかろうと…生命活動を維持できる程度に斬ってやろう」
「まるで……自分が勝てるみたいな言い草だね」
「エミリアをも斬る事のできる力を手にしたからな」
そして落ち葉が舞い上がると、アリアは目の前から消えた。少年は辺りを確認した、その瞬間、顔に何かがぶつかった。
「……うわっぷ!」
周囲を見回す少年の顔めがけて何か砂のようなものが投げられた、そしてそれは灰色の粉だった。灰色の粉は少年の周りを包み込み、灰色のドームを作り出した。
「…なにこれ……」
「それは我が国で採れる灰魔鉄と呼ばれる金属を粉状にしたものだ……そしてそれは…三時間ほど生物の視覚を奪う」
灰色のドームが消えると、少年は目をパチクリさせた。目の前には暗闇が広がっていたからだ。
「何も見えない……」
少年は視力を失っていたのだ、さっきまでは平原が見えていたが、今は真っ暗闇だった。木々も無くなり、ただ暗闇が続いていた。
「そして…私は自身の出した音と魔力を自由に消せる魔法を身体に付与している……聴覚と魔力探知も失ったと同然だ…」
「目も見えない…魔力も探知できない…耳も意味をなさないか……」
「その状態で私に攻撃を当てるのは不可能だ」
「なるほど……これがエミリアをも倒す力か…」
周囲からアリアの声が聞こえてくるが、少年はアリアがどこにいるか分からなかった。
「……どこを向いている?」
前から斬りかかられた。そして袈裟懸けで斬られ、血が服に染み付いた。
「…こっちだ」
今度はナイフを持つ腕を斬られ、血が噴き出した。それでもなお、少年は顔色一つ変えず、眉すら動かさなかった。
「反対だな」
今度は背後を十字、バッテンに斬られた。背中からは熱くて紅い液体が出ている。
「後ろだ…」
少年はなすすべも無く斬られ続け、身体には無数の切り傷ができていた。服は元から紅い服だったかのように血が染み付き、洗っても落ちない程に染まっている。
「痛みを感じないのか……斬っても眉ひとつ動かさない………子供だというのに…相当戦い慣れしていると見た」
『……目…耳……魔力さえも探知できない…………自由を奪われるのはいつぶりだろうね…』
すると、少年は発声練習のような事をし始めた、アリアもそれを見て困惑している。
「……何をしている…?」
「あー……あ〜………うん……よし…!」
その瞬間、平原の木々は揺れ、アリアも思わず耳を抑える程の轟音が鳴り響いた。それは獣の咆哮のようでもあり、ノイズのようでもあった。
「な……ッ…………なんだ!?」
「つかまえた…!」
混乱していたアリアの首に手を回し、いつのまにか少年はアリアを離さないように掴んでいた、アリアは混乱している。
「なッ……馬鹿な…」
「アハッ!……残念でした〜!」
アリアは振り落とそうと自身の体を揺さぶるが、少年は信じられない力でアリアを掴んでおり、落ちなかった。攻撃をしようとするも、背中の死角にいるため、攻撃もできなかった。
「どうやって……私の居場所を…!?」
「ふふ……何故でしょう…?」
「このガキめ…!」




