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優しい少女



「……あの戦い以来……一日欠かさず………そして若き頃に比べ何倍もの量の鍛錬を積んだ…それでも…変わらぬ」

「変わらない……」

「………樹一郎に勝てるとは思えんのだ………後に理解したが……鍛錬の量の問題では無かった」


するとラコウは震える声で、俯きながら言った。


「………樹一郎を超える……それは()()()()()という単純な動作だけで良かったのだ……しかし…私はその単純な動作さえ未だにできぬ…ッ……」

「本気を出す……」

「……普通に…本気を出すのとは別なのでしょうか」


門下生たちは戸惑いながらラコウにそう言った。ラコウは門下生たちを見ると落ち着いた様子で尋ねた。


「………お前たちにとって本気を出すとはなんだ」

「……ベストを尽くす…とか」

「全力で…全身全霊を持って戦いに挑む…とか……?」


するとラコウは嘲るように、それでいて自分とその場の門下生を嘲笑うかのような表情を浮かべ、静かに、それでいて悔しさを抑えるように言った。


「………本気を出すという言葉……お前たちも……私も…その意味をまるで分かっていない……」


門下生はどよめいている、それを打ち消すのようにラコウは言った。


「本気を出すとは全力を出すという事、読んで字の如く自身の()()を持ってして挑むという事……即ち命さえも…家族さえも…自身の持つ全てを失う覚悟を持って挑むということだ…」

「……………」

「私は……その全てを尽くさず…あまつさえ失う覚悟すら持っていないというのに全力を尽くすと…今まで言っていたのだ……」


ラコウが語る間、門下生は静かに、真剣な眼差しでラコウの語りを聞いていた。


「……樹一郎…あの漢の眼差しは幾年過ぎようと忘れはしない…………あの漢の目は……全て失う覚悟を持つ者の目だ…」

『……ふーん…そんな人がいるんだねぇ………とても素晴らしい公演を聞けたよ』


少年は道場の近くの壁へもたれかかり、ラコウの語りを聞いていたのだ。


『……それにしても…キイチローか……前からよく聞くけど…会った事は無いんだよなぁ……一度会ってみたい…』


少年は頬をパチンと叩くと、叫ぶわけにもいかないので、心の奥底で叫んだ。


『まぁ…とりあえず脱出するぞー!!…エイエイオー!』


そう心の中で叫んだ後、少年は下の階へ戻っていった。



……



「……アリア様…あなたのような方が護衛に従事されようとは…!……百人力…いや……千人力です!」

「…………お世辞はよせ」

「しかし…何故突然護衛を名乗り出たのですか?」


アリアは赤い満月を見ながら衛兵に尋ねた。


「……レッドアイ…異常な魔力を持つ者の心臓の活動が活発になる…即ち興奮状態の際にその溢れる魔力によって月が覆い尽くされる現象……それが赤い満月を創り出す…」

「ついこの間もレッドアイがありましたよね……何かの前触れですかね……」

「……レッドアイ…それが現れた時はいつも………何か起こる……」


そして、剣の柄を持つと一人で魔王城の城門から出ていった。


「ちょ…どこに!?」

「……レッドアイが出て……城の郊外から漂う妖しい匂い……忘れもせんぞ………」


アリアは急ぎ足で国の離れへ歩いていった。



……



「我こそは…魔王四騎士が一人……速刃のアリア…!」

「まずい…アリアだ!」

「むんッ!」


かの人魔戦争時、アリアは連合軍の精鋭部隊に壊滅的ダメージをたった一人で与え、常に先陣切って攻める突撃兵だった。


「……この門は…人間の前では開かぬ」


また、魔王城に続く城門の前で立ち塞がる番人でもあった。連合軍はこの鬼神の如き魔族を畏怖の念を込めて[修羅者]と呼んだ。


「……ッ………これほどか……噂の騎士とは…」


しかし、修羅と謳われた魔族もいつしか少女に敗れ、折れた剣を握りしめ、地面に膝をついていた。目の前で起こったあまりにも非常識な出来事に魔族の兵は動けなかった。


「みんなは最恐とか言ってたけど…大したことないね…四騎士って……」

「……殺せ」

「あぁ〜……君そういう系かぁ…」


少女は、アリアから背を向けて陣地へと戻っていった。アリアは離れていく少女に叫んだ。


「何故だ…何故私を生かす!」

「…………特に理由は無いかな……あえて言うならぁ……君は弱いからさ……強くなって挑んできてほしいから?」

「……ッ…!」

「あぁ…安心してよ!……僕は強い人しか()らないからさ…強くなるまで何度でも挑んできていいよ!」


戦場で最恐と言われ、修羅者とも恐れられたアリアは、たった一人の少女に弱者扱いされたのだ。


「………強くなるまでは…優しく相手してあげるよ…今のようにね」


初めて手加減されたのだ。ひ弱で、無力な、非力な、弱き民と思っていた少女に。



……



「この気配は………あのエミリアと酷似している………エミリアであれば即切り捨ててやろうぞ…」


アリアは自身の弱さを、そして手加減され、その上自分を弱者だからと見逃したエミリアに対する憎しみ、怒りを抑えながら気配のする方へ向かっていった。


「エミリア……この間…私が留守の間に来たらしいが………今度は見逃さん……必ず斬ってやるぞ…魔王様が何と言おうと…」















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