消失
「今のうちに上へ行くぞ…!」
「ああ」
目の前の業人を突っ切って、俺達は走っていった。少し走ると、霧が晴れて業人の気配が完全に消えた。
「……この森は当分…立ち入り禁止…!」
「…こんな数の業人がいたのにもかかわらず…今まで民間人の死者が1人も出てきてないのが不思議だな…」
そして先へ進んでいると、目の前には開けた広場があり、その真ん中に小さな小屋が見えてきた。
「アレか…?」
「……隠れ家とはいえ…お粗末だな」
俺達は小屋へと、近付いていった。
……
「…カイトは……いなさそうですね」
「……ヤタガラス…俺と楽織は外で業人が来ないか見張っておく…手掛かりを探しててくれ」
「カイトが来たら知らせるよ」
「了解…ッ…」
ヤタガラスは小屋の中に入った、小屋の中には机と椅子があるだけで、特に変わったものは無かった。
「…何も無ぇ……」
「……まさか…ここまで来て何も無いとか?」
「マジかよ……」
小屋の中で手掛かりを探すが、手掛かりは一向に見つからない。
「…………とりあえず…外に出ようか」
「…ああ」
ヤタガラスは外に出て、七海と楽織へめぼしいものは無かった事を伝えた。
「……マジすか…」
「ああ……もしかしたら…もう手掛かりを持って逃げたのかもな…」
「クッソ〜!!」
その場の全員が、諦めた様子で森を抜けようとした。すると、ナオトが小屋の方を見ていた。
「…父さん…?」
「……何か気配感じた」
「え…?」
ナオトは小屋の方へと歩いていった、しかし、ナオトが歩いていった場所には誰もいない。
「………悪い…気のせいだっr」
その刹那だった、ナオトの足元から黒い火柱が立った。
「…え……?」
火柱が消えると、そこにはボロボロになったナオトの上着しか無かった。
「気のせいじゃないよ」
「カイト…ッ!?」
「え…そん…な……えっ…」
「カイト……!?」
「こんちわ」
ナオトの立っていた場所に、カイトが立っていた。
「…お前……!」
「ははッ!…リミッター解除してればこんな事にはならなかったのにね…」
「……くッ…」
上着を持ちながら、カイトはヤタガラスへと、嘲るようにして言った。するとその上着を、ミユキの足元へ投げた。
「ほら…あげるよ……君のだ〜い好きなお父さんの…形見だよ…」
「……お前…」
そしてカイトは、ヤタガラスを見ながら続けて言った。
「まぁ…ヤタガラスのうち…一匹は殺したし……一旦逃げるとしようか……僕は慎重だからね」
「……逃げられると思ってんのか…カイト…」
「うん」
ミユキがカイトを掴みかかると、いつのまにかカイトは小屋へもたれかかっていた。
「…オロチの力か…」
「そだよ…便利だねコレ」
「……お前の内臓を引き摺り出して犬に食わせたあと…一滴残らず血を吸い尽くしてやるよ……カイトッ!!」
「おー…こわ…」
するとカイトは、頭を掻いたあとに言った。
「…そういえば…君達はここに手掛かりを探しに来たんだよね?」
「……だったら何だ」
「あげるよ!…手掛かり!」
「は…?」
カイトが指をパチンと鳴らすと、スマホにメールが送られてきた。
「そのメールに書かれた5つの座標……そこには…僕を復活させた奴の仲間がいた研究所がある……そこに僕を復活させた奴の手掛かりがあるよ…!」
「……なに…?」
「それじゃあ……僕はそろそろ御暇しようかな!」
「待て…カイトォ!!」
ミユキが掴みかかるが、ミユキは小屋の壁を握っていた。
「…………ッッッ…!!」
その場で拳を握り締めるミユキ、それを見て何とも言えない顔をするヤタガラスと、抵士官。6人は重い足取りで、森を抜けていった。
……
「あっ!…みんな……帰ってきたぞ!」
「…どうだった?」
「………正美さん…茂樹さん…アキラさん…トシジさん…タケヲさん……申し訳ありませんでした…ッ…」
「…………………」
川畑と宇川はナオトの家族へ、平謝りした。宇川は無言で、川畑は涙目になり、震える声で。
「……俺達がいながら…ッ…」
「どうしたんだよ!?」
「…………何があったか話せ」
ヤタガラスは、何があったかを一語一句違わずに話した。その間、ナオトの家族は静かに聞いていた。
「ナオトさん…が……」
「…なるほどな……」
「……ごめんなさい…ごめんなさい…守れなか…っ…」
ミユキはその場で崩れるように膝をつき、そう呟いていた。
「……ヤタガラスの一員になった時点で…アイツは死を覚悟していた…」
“親父…これから俺は…いつ死んでもおかしくない状況になる……だから…死んでも悲しむなよ!…まぁ……結局死なないのが俺だけどな…!”
「…っていうか……お前らが頭下げる必要ないだろ」
「…………そうだな…アンタ達が謝る必要はない…」
「謝る暇があったら……一刻も早くカイトを見つけようぜ」




