潜入調査
「……まだ来ませんね……」
「…………ああ……」
『何かを待ってるのかな……?』
少年は木の上から、立ち話をしている五人の魔族を見下ろしていた。
「……それにしても…人間の王ってのはあそこまで強いんですね…」
「…あの魔王の四騎士に致命傷を与え……そのうちの二人を封印したような奴等だ……しかし…予報の遥かに上をいったがな……まさかあれほどとは…」
『一部始終を見てたけど…レクスはやっぱやるなぁ……前よりも強くなってる気がするよ』
五人の魔族は他愛も無い会話をしているが、周囲をチラチラと見ており、どこか落ち着かない様子だった。
「……まだですかね…」
「さすがに遅いな……今レクスらに襲われたら一巻の終わりだ…」
「しかし…私たち以外の気配は無いですし…大丈夫ですよ……」
『僕がいるよ』
すると、小枝を踏む音が聞こえたと思えば茂みから今いる魔族の着ている鎧よりも重そうな鎧を見に纏った魔族が三人歩いてきた。
「……アリア様…!」
「遅くなったな」
『…あれは…魔王の四騎士の……[速刃のアリア]…だね……生きてたんだ』
「あなたが来たということは…帰還するのですよね?」
魔族達はアリアを見て、安堵の表情を浮かべた。
『移動魔法を使えるアリアを待ってたのか……自分たちで帰りなよ……』
「……よし…今までご苦労だったな」
「はい!…………え?……今まで…?」
その瞬間、幹部以外の四人の魔族がその場で倒れた。幹部はそれを見て絶句していた。
「こ…これ……は…」
「心配するな、お前たちは魔王様の実験に貢献できるのだ」
「ど…どういう…」
「任務を遂行できない負け犬が……国へ帰れるわけないだろ」
アリアはそう言うと幹部の腹に剣を突き刺さした、幹部は血反吐を吐き、阿鼻叫喚の表情を浮かべている。
「心配するな、貴様は腐っていても魔族だ、そんな簡単に死にはしない」
剣を引き抜くと、幹部は膝をついた。白目を剥き、気絶している。
「………運んでおけ」
「…はい」
アリアは剣を鞘に納めて消えた。そのあとにアリアの後ろにいた二人の黒いフードの男が魔族を袋へ詰めている。
『……ふーん…魔王ちゃん…君は仲間さえもそんな扱いするんだぁ……………クールだね!』
少年は魔法で角を生やした後、スマコで鎧に着替えて静かに木の上から降りると、黒いフードの男達に悟られぬように倒れている魔族に扮した。
「…待て…もう一人いる」
「……来た時にいたか?…こんな兵士…」
「いたんだろ、さっさと運ぶぞ」
『……【身体変化】…外見をほんの少し変える下位魔法だけど…なかなかどうして…使えるものだね…』
……
『……おっ…ワープしたね………ここは…地下かな…?』
少年は袋の中で自身のいる場所を把握していた。その場所は血の臭いが染み付いた地下実験場だった。
「よいしょ…と」
「これで全部か」
「ああ」
黒いフードの男達は袋を地面に置くと、足跡は遠のいていった、そして少年は袋を少し破いて外を見た。
「うわぁ……」
その部屋には沢山の袋が置いてあった、倉庫のような場所だった。
「それじゃあ……見学に行こうか」
少年は袋を破き外へ出た。そして、倉庫の扉を開けると、廊下へ出た。
「よし…こんな時は…………てれててっててー!……【神隠し】!」
誰もいないのを確認して、少年は手に小さな風を巻き起こした。すると、その風は少年を包み込み、少年を不可視化した。
「……これでよし」
少年は廊下を歩いていった、通り過ぎていく白衣の魔族は誰一人として、少年の存在を悟らなかった。
「……実験場…ここっぽいね」
歩いていた時に見つけた、第一実験場と書かれている部屋へ少年は入っていった。
「……うわぉ…!」
その場所では、テーブルに魔族や人間が固定されており、白衣の魔族が固定されている魔族や人間に魔法をかけたり、注射をしていた。
「うごぉぉぉぉ!!!」
注射をされた魔族が叫び声をあげると、急激に身体中から毛が生えてきて、狼男のような姿になった。
「……最近…魔族以外のモンスターが急速に増えてると思ってたんだよねぇ……この実験で作られてたのかな…?」
その他にも鬼のような姿であったり、手が生えてきて4本になっていたりしていた。
「それじゃあ、見たいものも見れたし、この書類は全部貰うよ」
少年は実験場に置いてあった実験記録などの重要な書類をスマコの倉庫へ保管した。
「……さて…帰ろうか」
「何処へだね?」
「おっ!」
近くにいた白衣の魔族が少年の目を見ながら言った、少年は呆気に取られていた。
「………異質な魔法を感じたと思えば…鼠が紛れ込んでいたとはな」
「お前……魔族では無いだろう」
「見た感じ…魔法の専門家もいるもんね、やっぱバレたかぁ…」
少年を囲むように、白衣の魔族は集まってきていた。
「見た感じ……戦闘力は高そうだ…良い実験材料になる」
「そこそこの強さの魔族…それにこの数は……ちょっとヤバイね……」
少年は少し震えていた。




