風向きの変化
「……あれ…」
走っているといつのまにか霧は晴れ、俺たちは平原に立っていた。
「……この先を真っ直ぐに進めば塔がある」
「よし、行こう!」
俺たちは急いで薄っすらと見える塔に向かって走っていった。
……
「お前たちか……」
塔の入り口の前にはレクスさんが立っていた、大量の魔族が倒れている中。
「……まさかあの防壁魔法と妨害魔法の壁を越えてくるとはな」
「いや…この人が……」
俺が横を見るとさっきまでいた狐は忽然と消えていた。
「あれ?」
「……どうやら無駄足だったみたいだな」
レクスさんの後ろから重そうな鎧を着た男と、軽そうな鎧を着ている美しい女の人が歩いてきた。
「……ムサシと…スカーレットか…」
「……………………魔法を感知したので急いで駆けつけたのだ…ここにはあの童がいるからな」
ムサシさんとスカーレットさん、確かこの世界にある四つの国の王だ、そしてどうやらこの二人は塔を守りにきたようだ。王達がわざわざ駆けつけて、何を守ろうとしたんだ?
「…その二人の青年は」
「え?…俺たちの事?」
「二人の青年なんて、お前たちしかいないだろ」
するとレクスさんは俺たち全員に言った。
「……塔の中で話そう…さっきの事とかで混乱しているだろうしな」
……
「……梅岡…十郎…か…………改めて…私はスカーレット…宜しくな」
「ああ」
スカーレットさんは俺たちの方をまじまじと見て言った。そして、自己紹介が終わるとレクスさんがムサシさんに尋ねた。
「それで……余と神子の元へ来た女が悪神の仲間だというのか?」
「………………ああ…その可能性が高い」
王達の話によれば、悪神には仲間に二人の女がいるらしい。そして、この霧と塔への襲撃はその女が起こした……らしい。ムサシさんが魔法で出した女の写真は襲撃に来た女と同じ顔らしい。
「……確かに…顔は同じだな…」
「しかし…何故この塔へ?……それにまだレクスさんからこの塔へ呼ばれたのかも聞いてませんが…」
「ああ…そうだな……それじゃあ……」
レクスさんが俺たちを呼んだ理由を言おうとすると、上の階から中学一年くらいの子供が降りてきた、服は着物で、巫女のような服だ。
「……その…二人の青年なのか?…私と行動を共にするのは…」
「…え?……行動?」
「…………お前たちには…この神子と共に行動してほしい」
レクスさんの言葉に俺は思わず声を出してしまった。
「ええ!?何で!?」
「……行動…僕達と悪神探しをするという事ですか?」
「ああ、そういうことだ」
俺たちが驚きのあまり絶句していると、塔の中へこれまた着物姿で初老の男と、汚れたアーサーが入ってきた。
「…レクス殿……森に残っていた残党は片付けましたが…神子は無事ですか?」
「どぅええ!?……崖へ…落ち……」
「はは!…凄いだろ」
俺の脳内は完全に混乱状態に陥っていた。
……
「それで…アーサーは助かって…その…師匠のアサダさんは塔の周辺で魔族を倒してたのね…」
さっきの霧が発生した時、レクスさんとアサダさんは塔と神子を守っていて、アーサーは崖から落ちた際に剣を突き立てたので落下速度は落ち、大事には至らなかったと、そういう事らしい。
「……けど…何で襲撃してきたんだ?」
「私が…目的だろう…」
「君が目的…ですか……しかし正直…王様方が急いで駆けつける程の価値があるのですか?」
「…………………ああ…何と言っても…その童は……悪神の魂の半分を持つからな」
悪神の魂の半分…一体どういう事だ?……悪神の体の一部って事か?
「……その子は悪神に狙われている…だから共に行動してほしいのは守ってほしい意味合いもある」
レクスさん曰く、王達は悪神を探そうとしている。そして見つけ次第討伐、そうする事によって元の世界へ帰れるのだそうだ。
「……あぁ…もう話は始まってたのね」
塔の中へ今度はホワイトが入ってきた、とんだパーティだな。するとホワイトは俺たちの方を向いて言った。
「……君達には悪神を探し出してほしい…と言ったね」
「ああ」
「…………王達の情報によって少し事情が変わった……君達も悪神は見つけ次第無力化してほしい」
悪神を探してホワイトに報告ではなく、悪神を見つけ次第無力化するということになったらしい。
「突然ですね、何故ですか?」
「実は…居場所掴んだら僕達が突撃して倒そうってなってたんだけど……」
「ど?」
「悪神の肉体は人間になっているらしいんだ……神だったら僕達も干渉できるし…特定してもらった後…凸してお仕置きをする事はできるけど…人間に手を出すのは神にとって御法度だからね、中身が神だとしても」
神は人間に手を出してはいけないらしい、そして悪神はそれを逆手にとって肉体だけ人間になったようだ。中身が神だとしても肉体は人間、即ち定義上は人間なので手出しできなくなったという事だ。
「一気に情報が流れてくるな、分かりやすく説明してくれないか?」
「分かった、なるべく分かりやすく説明するよ」




