ロシアの寒さ
「じゃあ行こうか……第二回戦の舞台へ…」
全員が乗った数秒後に、船はゆっくりと動き始めた。
「三時間程で着く…」
「……なんだよこの船…浮いてんぞ…」
俺は船の甲板から東京を眺めていた、高所恐怖症の人は見ない方がいいがな。
「…落ちるなよ……」
「……分かってるよ…」
「凄い景色だな……」
そして、俺達が東京を眺めていると、Aが俺達へ言った。
「…[ノアの方舟]……廃船を改造して作ったものだ…」
「手先が器用ってレベルじゃねぇな…」
「手先の器用さが…レベル99だな」
そうこうしているうちに、ノアの方舟の景色は海へと変わった。
「……速いな…」
「そりゃあな……PhoeniXに劣るとはいえ…PhoeniXの速度の二分の一はあるからな……素材にはうちの悪魔の魂属を少し借りている…」
「なッ…!?……悪魔や天使を殺さずに魂属を取り出す事ができるのか…!?」
総特抵士官達が、その言葉に反応した。まぁ、生かしたまま武器にできるのはデカイからな。
「…ああ……だが取り出せる魂属は一つだけだ……」
どんな方法であれ、魂属を一度取り出すと、取り出した悪魔や天使からは二度と魂属を取り出す事はできないらしい。
「……魂属を取り出せるのは一回限り…これは通常通り引き剥がすのと変わらない」
「そこは変わらないのだな…」
「だが…生きたまま魂属を取り出せるのはとても便利だ……やり方は…」
「…勝ったらな」
「……だろうね…」
そうこうしていると、ノアの方舟の目の前に大地が見えてきた、ロシアだ。
「…おお…着いた…」
「……ノアの方舟はモスクワにある支部へ停めて…汚染エリアへ向かう……ノアの方舟でも汚染エリアに近付き過ぎると墜落するからな…」
そして、ノアの方舟はモスクワの高層ビルの上で停まった。
「…ここからは車だ…」
高層ビルから出ると、ロシアの街並みが広がっていた。
「久しぶりだな!…ロシアに行くのは!」
「…まぁ……別世界のロシアだけどな…」
「おい…お前ら厚着してきたとはいえ…ロシアは寒いだろう?……これを持っておけ…」
Aは、俺達へカイロの入った袋を手渡した。
「カイロ?…こんなん…あっても変わらないだろ」
「ただのカイロではない…俺の作った特別なカイロだ……これは周囲の気温によって…発する熱の量が変わる……一応…持っておけば裸でも南極に行ける」
「…うお!……めちゃくちゃ丁度いい熱さだ!」
すると、光Pがカイロを持たず、厚着をしていないヤタガラスや俺の家族に尋ねてきた。
「……ナオトのご家族と…ヤタガラスは寒くないのか…ッ!?」
「…ああ!」
「……まぁな…」
「…白い息が出てねぇ……どうなってんだ…」
「人間じゃねぇよ!…さては悪魔か!?」
俺はロシアの寒さをものともしない、ヤタガラスや俺の家族へ言った。そんな俺に、十郎が言った。
「そう言うナオトさんも…普段着じゃないですか」
「…家族やヤタガラスのみんなが全員…普段着だから……俺も我慢して普段着のままなんだよ!」
そう、俺は他のヤタガラスの奴等や、家族と違うからな。
「ヤタガラスや俺の家族は…気温が高くても低くても身体状態が変わらない…だから寒くても何も感じねぇし…白い息も出ないんだ……だが俺は普通に身体状況が変わるからな!…ほら!…白い息も出てるだろ!?」
「……確かに…」
「じゃあ…この氷点下の中…ずっと我慢してるのか……スゲェなナオトさん…」
「ホント凄いよね〜!」
俺は寒さを我慢しながら、梅岡達へ叫んだ。
「…スゲェだろ!……スゲェって事が分かったんならさっさと行くぞ!……こっちは寒い中…お前らに色々と解説して凍傷になりかけてんだよ!!」
「あっ…すみません!」
……
「ここか…」
「…九州と違って…木が生えてるぞ…?」
「気を付けろ…木から落ちてくる実に当たると…触れた部分が腐食するぞ…」
「えぇ…ヤバ…」
森の入り口で、俺達は業に汚染された黒い木を見ていた。宇川は、その実を拾って見ていた。
「……おぉ…触ったらビリビリくる…」
「…お前らは触れて大丈夫か…」
そしてAが、どちらが先に【狡狼】を倒せるかという勝負についてのルールを説明し始めた。
「ルールを説明する……対戦者同士は攻撃をしてはならない…対戦者の戦っている【狡狼】を倒してもいい…」
「…誰がどちらが先に倒したかを判断するんだ?」
「それは…この高性能ドローンが映像を送ってくれるから大丈夫だ…」
Aはルールを説明し終えると、誰が勝負に出るかを尋ねてきた。
「……それで…そっちは誰が勝負をするんだ?」
「…俺が行こう……」
俺は誰よりも早くAに言って、前に出た。
「……身体をあっためたいからな…」




