安らぎをくれる料理
「お前が自信満々に川畑を推したから…川畑を選んだが……アイツはそんなに料理を作るのが上手いのか?」
「………俺達の世界で…世界一の料理人を決める大会があってな……アイツはその大会を三連覇している…」
「…実績があるんだな……」
川畑は淡々と、料理を作っている。すると宇川が、タケ爺へ言った。
「……何でタケ爺…料理の勝負を引退しちまったんだよ」
「…いつまでもジジイが…でしゃばってちゃあ駄目だろう?……年寄りは何も言わずにその道を降りて…若い奴等を見守るもんだ…大御所じゃねぇ…ただの老人としてな…」
「そうなのかぁ…」
「まぁ…料理を競い合うのを辞めただけで…店を辞めるわけじゃないからいいだろ」
「うん!」
そして俺が川畑のテーブルを見ると、千切りのキャベツがあった。
「……何を作るんだ?」
「…とんかつ」
「………とんかつ…」
どんなスゲー料理を作るのかと思ったら『とんかつ』か、まぁ、それが川畑らしいけどな。
「とんかつ…か…」
それを聞いていたAが、川畑の方を見た。
「…お前は?」
「……僕は…パスタさ…」
「ほぅ…」
シャルロッテのテーブルには、完成まであと少しのパスタが置いてあった。
「うぉぉ……スゲー高級感あるな!」
「…ミユキと行ったイタリアの高級店のパスタよりも……良い匂いだな…」
『おいおい…川畑負けるんじゃねぇか』と言うような顔で、みんなは川畑のとんかつを見ていた。
「……完成は…ほぼ同時か…」
「…………」
テーブルの上には、高級店にあるような豪華で、上品なパスタと、その美しさに押しつぶされそうになっている、何の変哲もないとんかつがあった。
「…料理に大切なのは…味だろ……どれだけ美しい料理だろうと…不味ければ意味がない」
「……僕の料理は…見た目も味も最高級さ…」
「自信があるのなら…先に採点してもらっていいぞ…」
「じゃあ…お言葉に甘えて…」
シャルロッテの作ったパスタが、3人の審査員のテーブルの上に置かれた。
「それじゃあ……頂くとしようか…」
「……どうぞ」
審査員が、パスタを口に運ぶ。
「…さっきから思ってたけど……あの三人って…」
「……ああ…高名な料理専門家や…高級レストランのオーナーシェフだ…」
「しかも…あの三人って……味にめちゃくちゃ厳しい人だろ?」
するとその時だった、パスタを食べた三人の目の色が変わった。
「………ほぅ…」
「……料理の見た目に負けない…とても上品な味だ…」
「うむ…そしてこの荒々しい…舌に突き刺さる濃厚なスパイスも…パスタによく合っている…」
「…この三人が褒めるとはな……」
「そんな美味いのか…」
俺はシャルロッテのパスタのソースを、指につけて舐めた。
「確かに…とても濃厚で美味い……風味はまるで年代物のワインのようだ…そしてその風味とスパイスが見事に調和し…シンフォニーを奏でているような…!」
「やかましいわ」
「父さんもう喋らないで…笑っちゃうから…」
そして今度は、川畑が審査員のテーブルへとんかつを置いた。
「…ふむ……これは…」
「一見すると…何の特徴もないとんかつだが…」
「まぁ…食べたら分かる…」
「……では…食べてみましょうか…」
審査員が、とんかつを口に運んだ。その瞬間だった、審査員が止まった。
「…こ……この味は…」
「どうかしたか?」
「この味は…私の母が作ってくれた…とんかつの味だ…」
「…とても…優しい味だ…」
川畑のとんかつを食べた審査員の中には、涙を浮かべる人もいた。
「…それじゃあ……どちらが良かったか…票を入れてくれ」
Aが審査員に言うと審査員は全員、川畑の方へ入れていた。
「……一体…どんな魔法を使ったのかな…?」
「…心を込めて…作っただけだ………ただ…それだけだ…」
「心を込めて…か…」
すると川畑は、シャルロッテに言った。
「…料理には技術や知識は必要だ…しかし…何より大事なのは…心を込めて作る事だ……心を込めて作った料理は…食べる者に安らぎを与えるのだ……タケ爺が言っていた事だ…」
「……なるほど………ただ美味しくするだけではなく…安らぎも与えるようにする…か……」
「………それで…俺の勝ちでいいのか?」
川畑が尋ねると、Aはその場で川畑へ言った。
「ああ…お前の勝ちだ……一回戦はな…」
「……まだあるのか…」
「当たり前だ」
まぁ、料理勝負で終わるわけが無いよな。
「……次の勝負は…【狡狼】…という業人を…どっちが早く倒せるかだ…」
「…【狡狼】……なんだそれ…」
「名前の通り…狡猾な狼の業人だ……奴等は死角や影から襲ってくる……逃げるフリをして…追いかけた奴を背後から襲う事が多いな…」
「………倒すのが面倒なその業人を…どちらが早く倒せるか…そんな勝負だ…」




