嘆きの声
「…断崖だ!」
俺たちの目の前には崖があった、崖の下は見えない。落ちたらひとたまりもないな。俺が崖の下を見ているとアビスゴブリンが森から出てきた。
「……首を斬って身体を落とす…だったよな?」
「はい」
「拙者が気を引いている間にお主が斬る…それで行くでござる」
そう言ってアーサーはアビスゴブリンに突撃していった、アビスゴブリンは斧を振り下ろす。
「むぅッ!…効かぬ!!」
アーサーは斧で斬られたが、鎧には傷一つ付いていなかった。するとアビスゴブリンはアーサーにタックルした。
「うお!」
二人が倒れると、十郎がアビスゴブリンの首へ刀を振り下ろした。しかし、アビスゴブリンはワープした。
「……ッ」
十郎は刀を寸止めした、もう少しでアーサーが真っ二つになるところだ。
「そっちか!」
アビスゴブリンは断崖のギリギリの部分へ立ち、斧を投げようとしていた、
「危ない!」
俺は近くの石を思い切り投げつけた、石はアビスゴブリンな斧に命中し、アビスゴブリンは斧を足元へ落とした。
「かたじけない、梅岡!」
アーサーは素早く起き上がり、斧を拾おうとするアビスゴブリンの喉元へ突きをした。
「ッ!?」
しかし、アビスゴブリンはいち早く察知して、ワープした。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「アーサー!!」
アーサーは自身の突きの勢いで断崖へ落ちていった、そして少しすると崖下で轟音が響いた。
「…クソ……」
「………今はこのモンスターを倒しましょう」
「ああ」
俺たちはアビスゴブリンへ向き合った、アーサーの為に絶対倒してみせる!
「……」
「……」
構えた俺たちとアビスゴブリンとの間に静寂が続き、最初に仕掛けたのは……
「……ふッ!」
俺は背後へ現れたアビスゴブリンの斧を蹴り上げた、斧は金属音を立てて上空へ舞っている。
「ナイスです!梅岡さん!」
そして上空を見上げたアビスゴブリンの頭を絶大な切れ味を持つその刀で斬った、頭は俺たちの足元へボトッと落ちた。
「はッ!」
頭を失い、混乱している体を俺は断崖へ蹴り飛ばした。そして、体は奈落へと落ちていった。少しすると崖下で轟音が響いた。
「……頭が…」
体が見えなくなると、頭は消滅した。どうやらアーサーの言う通り、再生できないと無力化できるらしいな。
「………やったか…」
「…はい」
俺たちはアビスゴブリンを倒したのだった、大きな代償はあったがな。
……
「……こんなもんか」
俺は森の出口で石を積んだ、これはアーサーのものだ。
「…………それじゃあ……行きましょうか」
「………ああ」
石を積んだ後、俺たちは薄暗い森を後にして、歩き出した。歩いている時、会話は弾まなかった。そんな時、その静寂を破るかのように背後から物音がした。
「………まさかな」
「…………………」
俺たちが振り返ると、木の影から見覚えのあるモンスターが出てきた。
「…嘘だろ……」
「この状態でも生きてるのですね」
木の影からは首の無いアビスゴブリンが出てきた、俺たちは構える。
「……まだ先へは進ませてくれないらしい」
「オオオオォォォォオオオオオォ!!」
アビスゴブリンは叫び出した、その雄叫びはどこか哀しく、まるで何かを乞い、嘆くような叫びだった。
「………細切れにするしかありませんね」
十郎は素早く間合いを詰めてアビスゴブリンを斬った。すると、一発しか見えなかったが、アビスゴブリンの身体は五等分にされていた。
「うぉぉ……」
一回刀を振っただけなのに身体はバラバラだ、なんという速さだ……
「…駄目ですか」
「うお!」
バラバラだった身体はすぐに元通り再生した、なんという再生能力だ、こんなの勝てるのか!?
「……なんだ…」
俺は再生した際にある事が気になった、それはアビスゴブリンが再生する時に一瞬だけ、本当にチラッと見えただけだが……
「…身体の中…鉱石が見えなかったか?」
「……はい…宝石のようなものが見えましたね」
「もしかしたら…その鉱石を抜き取れば…」
俺は十郎の目を見た、すると十郎は頷いた。そして、俺たちは斧を振り上げるアビスゴブリンに走っていった。
「…!」
十郎がアビスゴブリンの腹を水平に斬った、上半身と下半身が離れた、そして、一緒に鉱石も露出する。
「あった!」
俺は素早く鉱石を抜き取り、放り投げた。するとアビスゴブリンは再生したものも、膝をついて崩れ落ちた。そして、身体は粒子のようになり、風に飛ばされた。
「……マジでやったのか…」
「おそらく……」
アビスゴブリンは消えた。そして、風に飛ばされた粒子は星のように煌めきながら飛んでいった。
「……いきなりですけど…もしかしたら…あのアビスゴブリンは死にたかったのかもしれませんね」
「……俺も…あの咆哮を聞いて思った」
首無しのアビスゴブリンを見て思っていたが、何かに操られているような動きだった。
「……アビスによって変異か…あの悪神の力を取り込んでしまったからか?…だとしたらどうやって取り込んだんだ?」
「魔王の実験…ですかね…」
「どちらにせよ、魔王に会ってみないとな」




