殺戮の権化 エミリア
「……都合の良い事だと?」
「うん!…あー……単刀直入に言うと悪神の居場所を教えてほしい…教えてくれれば僕達は悪神を倒して元の世界へ帰れる…」
「我にとって良い事とは?」
「…君はその残骸から完全なる神の力を奪えばいい…君は神の力を何よりも欲してたからね」
エミリアが言い終わり、少しの間沈黙が続いた。沈黙を破ったのは魔王だった。魔王は嘲るように笑いながら言った。
「……仇である人間…あまつさえあの戦争で10万人の死傷者を出した貴様に情報を渡すだと?…それに貴様らでは悪神を倒せぬ」
「それじゃあ……情報は諦めるからしばらくの間は大人しくしててね……戦争とかいう愚かな選択をしないように」
「…………それは無理だな…もう戦争の準備は整っている………今からでも戦争はできる程にな」
するとエミリアは不敵な笑みを浮かべて魔王の目の前まで近付いた。
「……戦争なんてしてもいいの?…戦争になったら君の実験の事を他の魔族に言っちゃうよ?」
「…………貴様……」
「今まで忠誠を誓っていた魔王様が、自分と同じ魔族を極秘実験に使っている!……そんな秘密が知れ渡ったら君の兵士や国の民はどう思うだろうなぁ〜!!」
「……ッ…」
魔王の頬に一筋の汗が流れた。そして再び沈黙が続くと重い口を開いた。
「……今の貴様の目つき……敵は皆殺し…味方が十人死ねば百人の敵を殺す…殺生に何の躊躇いも無い……いくら隠そうと…その悪魔のような目つきは変わらんな……【殺戮の権化エミリア】…」
エミリアの背を赤い月が照らし、その瞳は紅く染まっていた。
「……それで?…どうするの?」
「……………」
「その大きな耳で聞こえないの?…引きちぎっちゃうよ?」
「……分かった…」
魔王は怒りを噛み締めるように、そして積年の怨みを抑圧して震えながら呟いた。
「…人間には当分…手は出さん……」
「だよねぇ…実験の事が知られたら兵士がいなくなっちゃうもんねぇ…あぁ!…反乱も起きるかもね!」
「…………」
「良い選択をしたよ…君は……」
そしてエミリアは魔王の肩をポンと叩いて、王の間を後にした。魔王は去っていくエミリアの背中を見る事しか出来なかった。
……
「……王……エミリア王…」
「なに?」
「魔王のあの言葉…」
「うん…絶対嘘だね……あの人が人間に手を出さないなんて言わないから」
執事とエミリアは月明かりが照らす中、国へ戻るために来た道を戻って歩いていた。
「……けど…これで戦争という選択肢は無くなったからぁ………考えられるのは暗殺かなぁ…それとも後ろからつけてきてる魔族が襲いかかってくるのかな…?」
そう言った瞬間、エミリアは背後からつけてきている魔族に幻影のナイフを飛ばした。ナイフは魔族の頬をかすめて消えた。
「……!?」
「ねぇ!……襲いかかってくるなら早くしてよ!」
「…完全に気配を消していた筈だが…」
フードを被った魔族は懐からダガーを取り出した。執事が剣を抜こうとするとエミリアはそれを止めた。
「僕がヤるよ!」
「……!」
すると二人の魔族は素早く間合いを詰めてダガーをエミリアに向かって振り下ろした。
「ッ!?」
「あれれ〜?…おかしいぞぉ〜?」
「何だと…!?」
しかし、ダガーが身体に触れた瞬間、ダガーはエミリアの身体を透けた。まるで霧を斬っているように。
「…【陽炎】……この魔法は幻影を生み出す…君達が斬ったのはさっきのナイフみたいな幻影だよ」
魔族の背後にエミリアが立っていた、そして二人の魔族が振り返る瞬間に後頭部を軽く殴った、すると二人はその場で倒れた。
「……君達が強かったら殺すところだったよ」
エミリアは倒れている二人の魔族を跨いで再び歩いていった。
……
「…エミリアめ……」
「魔王様…どうするつもりなのですか…?」
「エミリアがあの事を知っている以上侵攻はできない……外からではな」
魔王はエミリアの向かった方向を見ながら幹部へ言った。
「……外からの攻撃が駄目ならば内部から崩す」
そう言うと部屋に入ってきた魔族の青年がいた。魔王は青年の方を向いて青年に言った。
「……………」
「……国に忍び込み…エミリアとその本体を暗殺するのだ」
「…ああ」
そしてそれを城の外から眺めながらナイフを持つ少年は笑みを浮かべていた。
「……あんな小物じゃあエミリアは殺せないのに……」
少年は黒い枯れ木から飛び降りて、下で禅をする伍城に言った。
「面白い事になりそうだよ!」
「………そうか……お前は知らんが…俺には関係のない事だ」
「そんな悲しい事言わないでよ…伍城さん……もうちょっとしたら魔族と人間の戦いが始まる!…かもしれないというのに…」
「……!
すると伍城はその場で立ち上がり、帯を締めた。
「どうしたの?」
「………梅岡と桜から災厄の臭いがする」




