必ず帰る
「…今日からお前が……ヤタガラスだ…!」
「……!」
父さんにそう言われて、僕は気付いた。
“…銃は扱えるようになったか……それじゃあ…次はナイフ系か…”
僕はヤタガラスに、なりたかったわけでも。
“1時間で近接格闘術をマスターしたか……それがなんだ…お前は私が育てているのだぞ?…それくらいの事…1時間で出来て当然だ…”
ヤタガラスを、超えたかったわけでもない。
“……7歳でこの世界の言語全てを理解したか…まぁ……当然だな…”
僕は父と呼べるものに、認められたかったのだと。
「うっ…ぐッ……ひぐ…ッ…」
「な…何だよ……泣くほどの事か…?」
「父さ〜ん…ッ!」
ミユキさんは突然、赤子のような泣きじゃくりながら、ユウトさんへ抱きついた。
……
「……落ち着いたか?」
「うん!」
ミユキさんは散々泣いて、数分後にいつものミユキさんへ戻った。
「…新しい…ヤタガラスか……」
「じ…じゃあ…川畑さんとか…他の人は……ヤタガラスじゃなくなるんスカ!?」
「他の人だと!?」
川畑さんの部下が、川畑さんへ尋ねた。
「いや…俺達は普通にヤタガラスとして活動するけど?」
「え?」
「…組織を継ぐ……つまり…ヤタガラスの代表が変わるだけだ……初代のユウトから…2代目のミユキにな…」
どうやら、ヤタガラスをまとめる代表が変わるだけで、ユウトさんや宇川さんや川畑さんが、ヤタガラスを辞めるわけではないようだ。
「……何か…安心した…」
「…父さん」
「ん?」
そんな中、ミユキさんがユウトさんへ言った。
「ヤタガラスを継いで…代表になれたのは嬉しいけど……僕は……代表にはならない…」
「……なに?」
「………僕は…ヤタガラス相手に……全く歯が立たなかったから……それじゃあ…まだ駄目だなと思って……」
そしてヤタガラスへ、自信のある眼差しで言った。
「…だから今まで通り…父さんが代表をしててほしい……だけど忘れないでね…僕はまたいつか…ヤタガラスに挑むから………その時に勝ったら代表の座は貰うね!」
「……フッ…そうか…!」
……
そして、話しているといつのまにか、1時半になっていた。
「お!…時間だ!!」
「…じゃあ行こうか!」
そしてメンバーは、それぞれ友達や仲間に暫しの別れを告げた。
「……川畑さん…良い報告を…お待ちしておきます…」
「…ああ…待っとけ…」
「……“ライト”は俺達が…責任を持って回します…」
「フッ…頼むぞ…」
「ミユキ!」
「…あれ?…エミリア!……ゴッドカンパニーにいるんじゃなかったの?」
「…伝えないといけない事があってね!」
「うん?…なに?」
「……『業が片付いたら、僕と勝負しよう!』…って事を伝えないといけないなって!」
「…帰りを待ってる……とかじゃないんだね…」
「だって、君は絶対に帰ってくるもん」
「……樹一郎…」
「…アサダ…」
「……必ず帰ってこいッ…」
「…ああ……分かってる…」
「………絶対に帰ってこいよ…お前と再戦出来なくなるからな……樹一郎…」
「ラコウ……フン…言われなくとも分かっている…」
「お前達も忙しいな…テオロンの次に……また別の異世界へ行くとは…」
「…はは……何も言えねぇ…」
「……一度このテオロンという…世界を救ったお前達だ……二度救う事もできる筈……頑張れよ…」
「……はい」
「……………………帰ってこいよ…」
「…ああ!」
「ミノル……」
「…桜郎……蛇…」
「……死ぬなよ…」
「…分かってるよ」
「桜郎様を悲しませてみろ……お前の魂を切り刻んでやる…」
「恐ろしい事言うなよ……俺は死なねーよ…だから……桜郎と待ってろ…!」
「……ああ」
「オーナーァ…」
「……泣く事ないだろう…」
「…寂しくなりますね……オーナーがいなくなると…」
「……心配はいらない…すぐ帰ってくるから…」
「絶対ですよ!!…絶対すぐ帰ってきてくださいね!!」
「…うん」
「ジーク…僕が街の人の代弁をするね…」
「………ああ」
「…『レストランの数を増やしてくれ!』…以上!!」
「……ここで言う事かな…それは…………全く…応援とか貰えると思って…少し期待したのに……」
「…それと…『無事に帰ってきたら一週間、全てのレストランの料理が無料』…だって!」
「それは応援よりも嬉しいな!!」
「へへ!…アイツらは帰りを待ってる奴がいるんだな!!」
「…ああ…そのようだな……だが…俺達は……」
「ユウトさん!!」
「あ?……メルト…!」
「……僕…ユウトさんの帰り……待ってますから!!」
「……はは…ありがとよ…」
「グォォォォ!!」
「お!…ブラックエンドドラゴン!!…俺の為に来てくれたのか!?」
「あれは…危険度SSSの……ッ…」
「宇川さん…あのバケモノを従えてるのか…ッ…」
「グロォォォ…」
「へへ……そうか…寂しいか……まぁ…暫しの別れってやつだ!……必ず帰ってくる!!」
「ゴォォ!!」
「みんな!…そろそろ……」
「…ああ!」
「行くか…」
そして人々を背に、討伐メンバーはアースへと向かい、ワープした。




