チャレンジャー
「……今のお前なら…俺達三人と戦っても大丈夫…だな」
「…ああ」
「………始める前に一つ言っておく」
「何だ」
「……死ぬな」
笑みを浮かべるミユキさんを前にして、ユウトさんが俺の方を向いて言った。
「梅岡…合図を…」
「…あ…ああ!」
俺はミユキさんと、ヤタガラスの間に立って叫んだ。
「レ…レディー……ゴーッ!!」
合図をすると、地面を蹴って俺が仰け反る程の、風圧を生み出したミユキさんがヤタガラスへと向かっていった。
「ッ!」
ミユキさんは、川畑さんのハイキックを躱して、川畑さんへカウンターの蹴りを食らわせようとした。
「…ッラァ!!」
「ッ…」
川畑さんはカウンターを躱し、宇川さんがミユキさんを蹴ろうとしたが、ミユキさんはそれを避けた。
「が…はッ…!?」
しかし、避けた瞬間に背後にいたユウトさんの攻撃を食らい、一瞬静止した。そのスキを見逃さず、宇川さんが思い切りブン殴った。
「おいおい!…静止してたら…生死の境を彷徨う事になるぜ!?」
「ぐッ…ッ…」
ミユキさんも負けじと反撃するが、ユウトさんに受け止められた。ミユキさんはすかさず手を振り解き、攻撃しようとしたが、宇川さんの打撃を食らった。
「ッ!!」
反撃すると、ユウトさんと宇川さんは屈んで避けた。その瞬間、川畑さんの強烈な蹴りをモロに食らい、ミユキさんは怯んだ。
『来ると分かってても避けれねー…ッ!』
更に、嵐の如く打撃が降りかかる。反撃すれば、霧のように躱し、雷のようなカウンターを食らう。もはや、後半は一方的にミユキさんはやられていた。
……
「ぉぉ…」
「……ッ…!」
「俺達三人を相手に…頑張った方だぜ…!!」
ミユキさんは、痙攣を起こして倒れている。それを見てヤタガラスは、構えを解いた。
「…ミユキ……確かにお前は強い…だが……少し上へ目指し過ぎている……今のお前は…イカロスだ……」
「…ッ!?……ちょっと待て!」
「……なんだ?」
川畑さんが、ユウトさんと宇川さんへ言った。
「背中を見てみろ!」
「背中…?」
「うおッ!」
ヤタガラスが背中を見ると、デフォルメされたカラスの絵が描かれていた。
「俺達の…シンボルマーク…」
「…自分の血で描いたのか……俺達と戦っている中…!」
「……ミユキ…お前……」
「ぁ…ぁぁ……ぅ…」
すると、ミユキさんはゆっくりと起き上がった。
「…回復早過ぎだろ…ッ」
「……やっぱ…強ぇな……ヤタガラスは…」
そして服の汚れを払うと、ミユキさんは空を見上げながら言った。
「…まだ……駄目か…」
「そう嘆くな!…2代目ヤタガラスよ!」
「……え?」
ヤタガラスは、困惑するミユキさんへ言った。
「今日からお前は…ヤタガラスだ!」
「…え?…何で?」
「……コレ…お前が描いたんだろ?」
「…まぁ……」
ユウトさんは溜息を吐いて、ミユキさんへ言った。
「………ヤタガラスと戦いながら…悟られずにコレを描く……確かに俺達は…試合で勝ったが…勝負では……俺達の負けだ……だから約束通り…お前にヤタガラスの名は継がせる…」
「……僕が…ヤタ…ガラス…」
そして、ヤタガラスはミユキさんの目の前まで行き、ユウトさんがミユキさんへ言った。
「…今日からお前が……ヤタガラスだ…!」
「……!」
父さんにそう言われて、僕は気付いた。
“…銃は扱えるようになったか……それじゃあ…次はナイフ系か…”
僕はヤタガラスに、なりたかったわけでも。
“1時間で近接格闘術をマスターしたか……それがなんだ…お前は私が育てているのだぞ?…それくらいの事…1時間で出来て当然だ…”
ヤタガラスを、超えたかったわけでもない。
“……7歳でこの世界の言語全てを理解したか…まぁ……当然だな…”
僕は父と呼べるものに、認められたかったのだと。
「うっ…ぐッ……ひぐ…ッ…」
「な…何だよ……泣くほどの事か…?」
「父さ〜ん…ッ!」
ミユキさんは突然、赤子のような泣きじゃくりながら、ユウトさんへ抱きついた。
……
「……落ち着いたか?」
「うん!」
ミユキさんは散々泣いて、数分後にいつものミユキさんへ戻った。
「…新しい…ヤタガラスか……」
「じ…じゃあ…川畑さんとか…他の人は……ヤタガラスじゃなくなるんスカ!?」
「他の人だと!?」
川畑さんの部下が、川畑さんへ尋ねた。
「いや…俺達は普通にヤタガラスとして活動するけど?」
「え?」
「…組織を継ぐ……つまり…ヤタガラスの代表が変わるだけだ……初代のユウトから…2代目のミユキにな…」
どうやら、ヤタガラスをまとめる代表が変わるだけで、ユウトさんや宇川さんや川畑さんが、ヤタガラスを辞めるわけではないようだ。
「……何か…安心した…」
「…父さん」
「ん?」
そんな中、ミユキさんがユウトさんへ言った。
「ヤタガラスを継いで…代表になれたのは嬉しいけど……僕は……代表にはならない…」
「……なに?」
「………僕は…ヤタガラス相手に……全く歯が立たなかったから……それじゃあ…まだ駄目だなと思って……」
そしてヤタガラスへ、自信のある眼差しで言った。
「…だから今まで通り…父さんが代表をしててほしい……だけど忘れないでね…僕はまたいつか…ヤタガラスに挑むから………その時に勝ったら代表の座は貰うね!」
「……フッ…そうか…!」




