準備運動
「…だけどミユキ君と戦うんでしょ?…三人で…それも全盛期のヤタガラスが相手だと…ミユキ君困ると思って…だから戻すの後にしry」
「今して」
「え?」
ホワイトの言葉を遮って、ミユキさんが言った。
「……全盛期に出来るんなら今しろよ…その方が勝利も…味わい深いものになる…!」
「………だってよ」
「…分かった」
そしてホワイトは、ヤタガラスを見ながら指パッチンした。その瞬間、ヤタガラスの姿が、若返っていった。
「……おぉ…」
「懐いな!…この姿!」
「…………」
「え……えぇ!?」
その場にいる全員は、ユウトさんを見て驚いていた。
「な…なんだよ…」
「宇川さんと川畑さんは…まだほんの少し面影あるけど……ユウトさん……顔別人じゃないスカ!?」
今まで怖いくらい真顔だったユウトさんは、三白眼のマイペースっぽい高校生になっていた。
「え…えぇ!?」
「な…なんだよ…」
「宇川さんと川畑さんは…まだほんの少し面影あるけど……ユウトさん…目元めちゃくちゃ変わってるじゃないスか!?」
「四白から…三白になってますね…」
人々は、ユウトさんを見て驚いていた。前のユウトさんは、怖いくらいの真顔で、真っ黒な瞳の四白眼だったからだ。
「……あぁ…お前らの言ってる顔って…コレの事だろ」
「…そ…そうだよ!」
「この顔は…ジェノサイズモードっつー俺の戦闘形態の一つだな…」
「戦闘形態…?」
するとユウトさんは、説明し始めた。
「…俺の親父は恐怖を感じる程の真顔で……バケモノみてーに強かった……俺は強くなりたかったから…そんな親父の戦い方を真似てみようと思った……そして戦い方を97%程…コピーした時……俺の顔は…こうなっていた……」
「えぇ…」
「だから…ジェノサイズモードを発動してるとこんな顔になるんだ…」
「……たまにその爺ちゃんみてーな真顔の時があったが…そんな理由だったんだな…!」
「ああ」
そして、三白眼へ戻ったユウトさんへ、ミユキさんが言った。
「……俺はこの時をずっと待っていた…嬉し過ぎて漏らしそうだぜ…」
「…『俺』か……戦闘スイッチは入ってるようだな…!!」
「そりゃあな……さすがに戦闘態勢になんねぇと…一瞬で肉片にされちまうからな…!」
すると宇川さんが、一人称が『俺』になったミユキさんへ言った。
「……そういえば…お前が『僕』と『俺』を使い分けるようになったのは…確か中2の時か…」
「ああ…!」
“ミユキ!…知ってるか!?”
“え?…何が?”
“強ぇ奴はな!…自分の事を『俺』って言うんだぜ!!”
“え!…そうなの!?”
“ンなわけあるか”
“よく考えてみろ!…俺も…ユウトも…川畑も…全員自分の事を『俺』って言ってるぜ!!”
“確かに!!…けど…『僕』って言い方も気に入ってるんだよなぁ……”
“じゃあよ……『俺』と『僕』をスイッチみてーに切り替えたらどうだ?”
“…え?”
“普段は自分の事『僕』って言って…戦闘態勢の時は『俺』って言ったらどうだ!”
“…それはいいね……”
「……ちょっと待て…ミユキさんは…このテオロンでの戦いで常に…自分の事を『僕』と言っていた…樹一郎さんとの戦いでも…」
「…………あぁ…」
「…それじゃあつまり…ミユキさんは……このテオロンの戦いで…戦闘態勢になっていなかった…のか…ッ!?」
「ああ……テオロンでの戦いは…戦闘態勢になる程の戦いではない…」
即答するミユキさんを見て、俺はゾッとした。
「…俺も…鍛錬が足りないな…」
「……そんなミユキさんを…戦闘態勢にさせるなんて……どんだけヤタガラス強ぇんだよ…ッ…」
するとそんな中、ユウトさんがミユキさんへ言った。
「…なぁ……始まる前にいいか?」
「……なんだよ」
「お前が俺達三人と同時に…戦える程に強くなったのか…準備運動がてら見てみたい」
ミユキさんはクスリと笑って、ユウトさんへ言った。
「…へへ……いいぜ…」
「……おいユウト!…準備運動だぜ!!…ハメ外してやり過ぎんじゃねぇぞ!!」
「分かってる」
その場に座る川畑さんと宇川さんを背に、ユウトさんはミユキさんの前へ立った。
「…それじゃあ……レディー…ゴー!」
ユウトさんがそう言った瞬間、ミユキさんはユウトさんへ閃光の如く、殴りかかった。しかし、ユウトさんはそれを受け止める。
「……強くはなってるな…だが……俺達三人を同時に相手するのは…まだ早い…」
「…ホントにそうかな?」
「……ああ…まりャ」
その瞬間、ユウトさんは虚ろな目になり、地面に膝をついた。
「脳震盪か…」
「…ユウト……油断したな…」
「……あれ?…見えなかった?」
「へッ……まさか…俺の意識を奪うとはな……」
ユウトさんは立ち上がって、ミユキさんを凝視した。
「反省しないとな…お前を少し甘く見過ぎた………だから次は…油断しねぇ…!」
そう言って、ユウトさんはその場で何かを囁くように、呟き始めた。




