絶望
「…ここまで強くなっていたのは想定外だ……しかし…俺もお前に負けてから成長した……」
「成長した割には…手も足も出ないようだが?」
「言ってろ……俺は…お前を確実に仕留める技を作ったんだ…」
「ほぅ…奇遇だな……俺もお前のような神を確実に仕留める奥義を…作ったんだ…」
樹一郎とワーガナは、少し距離を取って向かい合った。
「俺は今からその技を出す……」
「…なら俺も……奥義を出そうか…」
「へッ…お互いに技を出し……立っていた方が勝利者というわけか…」
そしてワーガナと樹一郎の間に、静寂が訪れた。二人はお互いの目だけをジッと見ている。
「「…………」」
「…どっちが先だ……」
「樹一郎さん…ッ……」
その刹那、目を見開いた樹一郎とワーガナが、同時にお互いへ向かって走っていった。
「ワァァガナァァァアアッ!!」
「キイチロォォォオオッ!!」
「神滅の刃閃ッ!!」
「亡尽のヘルブライドッ!!」
二人が交わった瞬間、閃光でミノルと蛇の目の前が白くなった。光が無くなると、ワーガナと樹一郎二人とも立っていた。すると、樹一郎は膝をついた。
「樹一郎さんッ!!」
「……なんだかんだ言って…お前との勝負……楽しかったぜ…ッ!……あの計画の事を忘れちまう程にな……」
「…楽しかった…か……フン…俺もだ……」
ワーガナは、そう呟いてその場に倒れた。樹一郎は立ち上がって、ワーガナの方へと歩いて行った。
「……神だからまた…復活できるよな?……また復活したら…かかってこい……ぶっ倒してやる…!」
「へへ…そうか……じゃあまた…来るわ……」
するとワーガナは、空を見ながら呟いた。
「へッ……悪いな…エラトマ……あの計画だが……あとはお前らで頑張ってくれ…」
そう言い残して災神ワーガナは消えていった。
……
「もういいよ……死ね」
「…へへ……やったんだな…樹一郎さん!」
エラトマ兄弟が、俺達へ攻撃しようとしたその時、エラトマ兄弟の身体から何かの破片が飛び散った。
「え…?……な……」
「…ナイスタイミングですね…樹一郎さん……」
「これは……」
俺達はほんの少し焦っている様子の、エラトマ兄弟へおちょくるように言った。
「余裕が無くなりましたね…!」
「さっきまでの余裕はどうしたのかなぁ〜!?」
「…馬鹿な……災神さんが…あのワーガナさんが……ッ!?」
焦るエラトマ兄弟へ、俺達は詰め寄りながら言った。
「…さて……やろうか…」
「……斬る」
「舐めんなよ……ワーガナさんの力が無くとも…お前等如きに遅れは取らない……フン…少し早いが…処理しておこうか…」
「…神の力を……実力の差を見せてあげるよ…」
そして、俺達は向かい合った。
「……十郎…頼んだぜ…!」
「…はい」
俺は素手だ、神を倒せない。だからエラトマ兄弟を倒すのは、十郎の役目だ。
「行くぜ…ッ!!」
その時だった、電話の着信音のような音が辺りに響き渡ったのだ。その音を聞いて、十郎と俺が思わず動揺すると、レインは笑みを浮かべて俺達へ言った。
「…二人の準備が完了したようだね……」
「ああ…完了したなら……今の状態でも外へ出て大丈夫そうだな」
すると、視界が光に包まれた。
「くッ……何だッ!?」
……
「……お前は…!!」
「エラトマだ!!」
目を開けると、俺達は外へ立っていた。目の前には、エラトマ兵士と戦うみんなの姿があった。
「あれ?…ワーガナが倒されたのに……姿を現していいの?」
「ああ……ミユキの準備が整ったからな」
「……え?」
その時、嵐の如き殺意が王達を包み込んだ。王達がゆっくりと振り返ると、そこには烏のような面を付けたミユキさんの姿があった。
「ホー…ホー……」
「……ミユ…キ?」
すると、ミユキさんはエラトマ兵士ではなく、王達や味方の兵士達を攻撃し始めた。
「……………………ミユキ!!…何の真似だ!?」
「……ミユキは俺達の傀儡だよ…」
「…なに!?」
王達は今までにないくらい、動揺していた。
「馬鹿な…あのミユキが……そんな筈は……ッ!」
「…けどこれが現実だ……さて…もう一人の人形君は…どうかな…?」
……
「……樹一郎さん…大丈夫ですか…?」
「ああ…」
ミノルや蛇が、樹一郎の手当てをしていると、辺りへ轟音が響いた。
「…何だ!?」
「……さく…ろ…?」
そう呟いたミノルの視線の方へ、蛇も視線を向けると、そこには異形となりつつある桜郎の姿があった。
「桜郎様…ッ!?」
「…エラトマァァアッ!!……お前等かッ!!…桜郎をこんな姿へ変えたのは…ッ…」
怒りと悲しみがぶつかり合うミノルの肩をポンと叩いて、蛇は刀を構えた。それを見てミノルもハッとして、我に戻った。
「……ミノル…今は桜郎様を……助けるぞ…」
「…あぁ……そうだな……すまない…」
そして、ミノルと蛇は桜郎に向かって刀を構えた。
「樹一郎殿は体を休めておいてください……無理に動くと傷が開いてしまう……」
「それにこれは…アンタとワーガナのように……勝利を俺と蛇以外の誰にも譲れない戦い…ですから…」
「……そうか…」




