陰陽の龍
「……ここから山へ登るのか…」
俺たちの目の前には登山道があった。しかし柵は無く、道も荒れているので怖いな。だが十郎はビビってる様子も無く、進んでいった。
「早く行きましょう」
「ちょ、待てよ」
俺も十郎の後を追って登山道を進んでいった。しばらくは草木が生い茂っていたが、段々と岩や石だけになってきた。
「…結構……高い所まで来たな…」
「97mですよ」
「マジ!?…170mって…まだまだだな…」
この山は560mある、まだ先は長そうだ。俺は少し怖いが、なるべく下を見ないように震えながら先へ進んでいった。すると十郎がそんな俺を見兼ねたのか俺に話しかけてきた。
「梅岡さんは【天乃神宝】というものを知ってますか?」
「ああ……ラノベによくある選ばれし者にしか扱えない武器や防具…道具だろ?」
「はい」
天乃神宝はスマコで知った。なんでもこの世界にある伝説の武器だそうだ。その力は神に匹敵するらしい、俺には無縁のものだがな。
「…なんでもその一つの【ウェルテクス】という剣に選ばれた人がいたらしいですよ」
「へぇ…」
「しかもその人、トラベラーらしいですよ」
「トラベラー?…俺たちと同じように外から来た人か」
トラベラーとは、何らかの理由でこの世界へ転生、転移、召喚された人々の事だ。俺たちは神から頼まれてこの世界へ来たがな。
「ギルドにいるらしいので会ってみたいですね」
「ああ…さっさと魔法ゲットしてギルドに行くか!」
俺たちは山を登っていった、気付かなかったが話している内にどうやら350mまで来ていたようだ。
……
「……龍…見ませんね」
「俺からしたら嬉しいけどね」
この山を寝床にしている邪龍と聖龍は俺たちの前に姿を見せない、邪龍は森で見たがな。
「進めませんね」
「マジかよ」
登山道は途中で岩が邪魔をして、進めなかった。俺は目に入った近くの洞窟の中を見た。
「この洞窟から進めそうだ」
「それではここから行きましょう」
俺たちは洞窟の中へ進んでいった、中は暗闇が広がっている。
「うげぇ…マジかよ…」
「大丈夫ですか?」
「…金無いからマッチ買えなかったんだよなぁ……」
俺がその場で膝をつくと、十郎がクスッと笑って俺にマッチを差し出した。
「そんな事もあろうかと僕が買っておきましたよ」
「…お前ってやつは最高だせ!」
俺は近くの棒を拾って火をつけた、洞窟は炎の明かりに照らされている。このくらい明るかったら大丈夫だぜ!
「…うお……コウモリだ…」
「無視して行きましょう」
天井には無数のコウモリがいる。俺たちはコウモリを無視して進んでいるが、一本道だ。
「なんだよ、一本道かよ」
そんな時に天井を埋め尽くしていたコウモリがいなくなった。不思議に思いながら進んでいると少し開い場所に出た。
「おい…あれって…」
「アレかもしれませんね」
奥には虹色に輝く鉱石がいくつもあった、あれがオリジンか?…案外簡単に手に入ったな。頂上まで行かなくても良かったんだ。
「……行くか?」
「慎重に行きましょう」
「…!」
俺の目の前には黒い龍と白い龍が寝ていた、気付かなかった。コイツらが邪龍と聖龍か。
「……だな」
俺たちは無駄な戦闘を避けるために静かに、息を殺しながら先へ進んだ。なんとなく2匹の龍を見ると、まるで何かを守っているような感じだった。
「…オリジンでも守ってんのか?」
俺たちは2匹の龍の隙間を通り抜けてオリジンの元まで行って、俺たちは落ちているオリジンを拾ってた。
「これで、どうするんだ?」
「一旦この洞窟から出ましょうか」
「…ああ……それもそうだな」
俺が再び龍を通り抜けようとすると、熊のぬいぐるみが落ちていた。さっきは無かったような……
「なんだこのぬいぐるみ……なんか不思議な感じするな…」
「それ持っていくのですか?」
「ああ」
俺はぬいぐるみとオリジンを持って龍の眠る広場から離れた。そして狭い通路に差し掛かった瞬間に龍が突然咆哮した。
「な…なんだ!?」
「梅岡さん、走りましょう」
「ああ!」
俺たちは咆哮のせいか、揺れる道具を走って外へ飛び出した。
「うお!?…危ねぇ……もう少しで真っ逆さまだ…」
俺はもう少しで落ちそうだった、すると十郎が上を向いている。俺も上を向くと2匹の龍が俺たちを睨みこちらへ向かってきた。
「やべぇ…!」
十郎は剣を抜いている、だが、2匹の龍は俺たちの近くへ飛んできた瞬間に止まった。
「な…なんだ…!?」
そしてぬいぐるみを見つめるとどこかへ飛んでいった。なんだったんだ!?
「このぬいぐるみのおかげか?」
「かもですね」
2匹の龍は天空へ登り、雲の中へ消えていった。
……
「なんだ…戦らないのか……」
山の影から何者かが二人を見つめていた。




