ユウトの手袋
「……何か御用でしょうか」
「はい!…これ!」
「……………どうぞ」
手紙を渡すと、戦士は道を開けた。ミユキが屋敷の中へ入ると、執事のような人物が立っていた。
「…ミユキ様……本日はどのような要件で…」
「……ちょっと先生に話したい事があってね!」
「…分かりました……ご案内しましょう」
そして執事に案内され、ミユキは上の階にある部屋へと入った。部屋は壁一面本棚で、大きな窓がある。その中心に机と窓側に向いている椅子があった。
「……久しぶりだね…先生…」
すると椅子が、ミユキの方へ向いた。椅子には、ぬいぐるみが置いてあった。そしてそのぬいぐるみから、音声が流れてきた。
《………久しぶりだな…》
「……先生の事だから…僕が何を言いにきたか分かるよね?」
《ああ……悪神エラトマ討伐を手伝ってほしい…そうだよな?》
「うん」
少しの沈黙の後、ぬいぐるみはミユキへ言った。
《悪いが…それはできない》
「…そっかぁ……」
《……お前も分かってるだろう…………エラトマは…梅岡と十郎…あの二人の仇だ………外野の俺達が倒すよりも…あの二人が倒して方が後味がいいだろう……宇川も霧島も…同じ事を言うと思うぞ》
「……まぁ…そうだね………」
ミユキは時間を見て、ぬいぐるみへ言った。
「それじゃあ…帰るとするよ……ごめんね…お邪魔しちゃって……」
そして、ミユキが部屋から出ようとすると、ぬいぐるみが言った。
《…最後に一つ言っておこう……》
「……なに?」
ミユキがその場に立ち止まると、ぬいぐるみは続けて言った。
《……梅岡は…ユウトから手袋を貰っただろう?》
「あぁ…らしいね……本人も言ってたし…手袋も父さんのだったし……それがどうしたの?」
《あれは…ユウトが仕事をしていた時に着けていたものだ……だから少しボロくなっているかもしれないと言っておいてくれ…》
それを聞いてミユキは、何かを察したのかその場で微笑した。
「…なるほどね……父さん…粋な事をするなぁ…」
……
「……ジェイク…」
「…お前らか」
俺と十郎は、沢山の墓地がある場所に来ていた、ジェイクの元へ来ていた。
「………カオルの事は…あー……残念だった…」
「…フン……わざわざそれを言いに来たのか?」
「ああ……言わないよりも…言っておいた方がいいと思って…」
するとジェイクは墓の前に花束を置いて、墓をジッと見ながら言った。
「……………聖騎士は…人間の敵になる生物から国を守る……その他にも…犯罪者を取り締まる役目も担っている」
「…………」
「……それ故に…いつも死と隣り合わせだ……カオルも俺もそれは分かっていたし…俺もカオルも仲間の死は覚悟できていた…」
ジェイクは立ち上がって、俺達の方へ振り向くと続けて言った。
「…そしていざ仲間の死を目の当たりにして……生き残った騎士は何をするか…ただ泣くだけか?…違う………生き残った騎士は…ただ戦い続けるだけだ…」
そう言ってジェイクは、俺達を横切って去っていった。
「……確かに…そうだな……俺達がまずやるべきなのは…墓参りではなく……エラトマ討伐だ」
「…ですね」
……
「……なんだか…目が変わったね……二人とも…」
「…ああ」
「目がキリッ!…ってなってる…」
今はミユキさんと王達、そして俺と十郎だけで魔王城の会議室へいた。
「……で?…この集まりは何だ」
「…王と……梅岡達しかいないが?」
「……いやー…実はエラトマ討伐の作戦を考えてきたんだぁ………一応…」
そしてミユキさんは、俺達の方を見ると、大きな声で言った。
「エラトマ討伐は!…梅岡君と十郎君に任せて……僕達はそれをサポートしようと思ってね」
「…え?……俺等がエラトマ討伐すんの?」
「うん!」
十郎はまだ分かるが…何故俺なんだ?……俺よりも強い人なんていくらでも……
「なんで俺?…俺より強い人は何人もいるだろ…」
「…梅岡君と十郎君じゃなければ…エラトマ兄弟は倒せない……これは確信だよ…」
「そこまで言うんならやるけど……」
するとミユキさんが、何か思い出したのような顔をして、その数秒後に俺へ言った。
「あ!……そういえば先生から…梅岡君に伝言を頼まれたんだった!」
「え?…ミユキさんの先生……あ…川畑さん?」
「うん!…僕の先生の川畑さんから伝言!」
川畑さん、確かミノルさんと戦った時に、俺やギルドの戦士達を助けてくれた恩人だ。そんな川畑さんが、俺に何の伝言なんだ?
「……梅岡君の手袋は …僕の父さんユウトが仕事をしていた時に着けていたものだから少しボロくなっているかもしれない……だってさ!」
「手袋…あ!」
俺はその時、俺のはめている手袋が、ユウトさんから貰った物だということを思い出した。忘れていた……
「そうだ…よくよく考えたら……俺はこの手袋を貰ったし…戦いでは素手が武器だ……だったら…」




