快楽に沈む
「…これだと……拷問しても言わないと思いますよ…」
「……天使とか悪魔は…死んでも復活できるから…死の恐怖が無い……ここからは僕がするよ…」
「…無駄だと思いますがね……」
尋問官が出て行った後に、ミユキは机に並べられた拷問器具を見ながら、女性へ言った。
「…僕はさ……父さんや師匠…先生にヤタガラスの流儀を教えてもらってから…一度も人を殺した事がない……殺すべき人間が見つからないから…」
「……………………」
「だけど…人間の苦し悶える顔が見たくて見たくてたまらない……だから…死なない程度に……それでいて死ぬ方がマシだと思う程の痛みを与えて愉しんでいた…」
そして包丁の刃を触り、指から出てきた血を舐めながら続けて言った。
「…限界まで痛みを与えたり…死にそうになったら僕の血を与えて回復させる…そしてまた……ふふ…」
「……サディストですね…」
「よく言われるけど……一度やってみたら病み付きになるよ!……感触的には…魚とか豚肉をさばくのに近いかな…」
その瞬間、包丁を女性の腹へ突き刺した。女性は無表情で、何の反応もしない。
「やっぱり君は……痛みを感じないか…」
「ええ…あなたとは相性最悪ですね」
するとミユキは包丁をしまって、天使の目を見ながら言った。
「…痛みで歪む顔も好きだけど……快楽に溺れる顔も好きだよ…」
「………………」
「痛みを感じない人は……快楽に溺れさせるといいよ…」
「…へぇ……」
そしてミユキは、指の骨を鳴らすと女性へ近付いた、女性は無表情のままだ。
「耐えてもいいよ?……だけど…気持ち良すぎて…逆に苦痛だと思うけどね!」
「…痛みを感じない私が……快楽に溺れるとでも?」
「……痛みを感じないからこそ…快楽には溺れやすいんだよ……それに今の発言…フラグにしか聞こえないよ…」
……
あの女性から情報を引き出したと言って、上半身だけ脱いだミユキさんが戻ってきた、ほんの少し筋肉質だな。
「…ミユキさん……情報ゲットしたんか?」
「うん!…悪神の事ぜーんぶ話してくれたよ!」
「……拷問の通じない天使から…どうやって…」
「多分…見たら分かるよ!」
俺と十郎、王達は女性のいた取り調べ室へ行った。そして中へ入ると、俺は思わず「うおッ!?」と声を出してしまった。
「ちょ…これエグいてぇ…」
「エグいね!」
するとミユキさんが、俺達へ笑みを浮かべながら言った。
「この子を悪神達の所へ返したらさ……一体どんな反応するかな…?」
「……悪趣味な事を考えるな…」
「…悪神のアジトの位置は分かったし……挑発付きの宣戦布告メッセージと共にこの子を悪神の所へ送ろう!」
女性は尋問官によって、運ばれていった。その後に、俺は気になったのでミユキさんに尋ねた。
「一体何をしたら…あんな事になるんだ…?」
「…僕も気になります」
「気になる?…じゃあ教えてあげるよ!……僕がやったのはね…」
……
「ラ…ライン様…」
「どうした?」
エラトマ兄弟の、兄にあたるラインがパソコンを操作していると、鎧姿の女性が少し焦った様子で部屋に入ってきた。
「それが……」
「…マロが負けた?」
ラインがレインのいる部屋へ入ると、レインが死んだような目をして項垂れていた。
「……マロがやられたのか?」
するとレインは無言で、テレビを指差した。ラインはテレビの電源をつけた。するとビデオの映像が流れてきた。
[あれ?…もう限界かな?]
[ぇ…あぇ……]
[……話す気になった?]
[ひゃい!…なぁん…でぇッ……も話しましゅ…う…]
テレビの画面には大量の体液が付着しているミユキと、そのミユキに撫でられながら、身体をビクッとさせ快楽に溺れた様子の、マロが映し出されていた。
「…これは……まさか…」
ラインの脳裏に不穏な何かがよぎり、ラインは部屋に置いてある大きなダンボールの中を見た。そして、絶句した。
「あぁ……ぁえ…えぇへ…」
「………ああ…あああぁぁぁぁ!!…マロが……!」
「レイン様!…気を確かに…!」
「ミユキ……ッ…クソ……バケモノが…」
ダンボールの中には、テレビに映し出されていたマロがそのまま入っていた。すると落ち着いた様子のレインが、ラインへ呟いた。
「……ライン兄…」
「…あぁ?」
「…………………僕達二人なら…ミユキを殺せるよね…?」
「…………あぁ…何度もシュミレーションした……俺達が勝つ確率は…………97%だ…」
それを聞いたレインはニヤリと不気味に笑い、ラインへ続けて言った。
「ミユキは…ただ無残に殺すだけじゃあ駄目だ………屈辱的な事をやらせて……死にたくても死なせない…永遠に苦しめればいいと思うんだけど……」
「…いいな……それは…」
その時、悪神のアジトの中では不気味な笑い声が響き渡っていた。




