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盗賊の義理




「…分かった……君には何もしないから…出てきてよ…」

『どうせ出てきた瞬間に殺すんだろ?』


ガキは周りを見ながら優しくそう言った。さっきまで殺戮を楽しんでた奴がそう言っても説得力が無いな。


「……そこにいるんでしょ?」

『なに!?』


ガキは俺の隠れる木に向かって言った。何故バレた!?……瞬時に隠れたから見られていなかったはずだ…ハッタリでもねぇ…


『どうする…出るか?……もしかしたら偶然かもしれない…』

「じゃあ僕から行くよ」

『どうする!?俺!?…近付いてきてるぞ!!…接近されたら勝ち目は無い…』

「うおおお!!」


俺は思い切り斧を投げつけた。すると奇跡や偶然が俺の味方をしてくれたのか、ナイフに命中してナイフはガキの手から離れた。


「おお…やるね…」

『どうする……相手は素手だ…このままやっちまうか!?…いや…()()()の奴等みたいに素手でも強い可能性がある…』


俺は背を向けて全速力で走った、少し走って俺はうつ伏せに倒れた。喉から血の味がする……だが俺は力を振り絞って立ち上がり、ゆっくりと後ろを向いた。


「…いない……」


撒いたのか?……後ろには誰もいない。仲間の死体も見えない。すると突然、何者かが俺の背中から抱きついた。


「…!?」

「はーい…じっとしててね……良い子良い子」

「な…に……」


ガキは俺をギュッと抱きしめて言った。


「…そんな良い子の君は……殺しません!」

「なんだ…と…!?」


殺さないだと?……要するに見逃してやってもいいって事か…?


「で・す・が!……今から僕の言う事に従ってもらいます!」

「な…なんだ…?」


そんなもの幾らでも従ってやる!…なんだ!?……靴を舐めろってか!?…何分でも舐めてやるよ!


「そこにいるお仲間さんを殺してよ」


ガキがそう言うと足元に何かが当たり、下を見るとまだ息のある仲間が倒れていた。


「顔を踏みつけたら死ぬからさ!」

「…う……」

「ちなみに時間制限あるからね」


俺を抱きしめるガキの力が強くなった……やべぇ……めっちゃ痛い……というか骨折れる…


「うぐ……ぐ……」

「早くしないと折れちゃうよ?」


どうする、俺は盗賊で悪人だが義理はある。ここで仲間を殺したら俺は本物の外道になっちまう……


「……へへ……へへへ…」

「どうしたの?…壊れちゃった?」

「お…俺は……お前の玩具には…ならねぇぜ…!」


死ぬ、どうせ死ぬ。ならばせめて最期は仲間を売らずに死んだ方が…かっこいいだろう……


「……ふーん…」


するとガキは俺から離れた、俺は思わずその場でへたり込んだ。腕の骨にヒビが入ってるな…すごい激痛だ……


「…俺を…殺さないのか……」

「死を恐れず……それどころか覚悟してる人を殺しても面白くないなぁ…」


そしてガキはまるで飽きた玩具でも見るかのように俺や倒れた仲間を見た。


「……君の覚悟に免じて…君もそのお仲間も見逃してあげるよ」


そう言い残し、ガキは俺たちの元から去っていった。俺は急いであのガキに殺された奴等を見に行った。


「…う…ぐぐ…」

「なッ!?」


倒れている仲間は全員うめき声をあげているが、息があった。


「喉元を刺されたはずなのに……」


俺はその場に膝をついた、そして安心からか、仲間が生きてて良かったからか目から涙が出てきた。



……



「……伍城さん!」

「…………」


伍城は森の大樹の側で目を瞑り、静かに座禅を組んでいた、少年は伍城に走って近付き隣で屈んだ。


「……邪魔だ」

「いいじゃん…ちょっとくらい見てても」

「…血の臭い………またか」

「うん!」


少年は血のついたナイフを掲げて元気よく言った。


「あ!…だけど()()()はないよ!…伍城さんがうるさいから」


少年がナイフを振ると、ナイフが紅の瘴気に包まれた、瘴気に包まれた刃は鈍く光っている。


「その状態では殺生をするなよ」

「分かってるよ、この状態はアレが付与されてないからね」


少年はナイフに手を当てた、すると紅の瘴気は無くなった。


「…【反殺】……この魔法を付与した武器では人を殺害できない…斬っても刺しても殺しても時間経過で傷は癒え…蘇生される……僕にとっては邪魔でしかない……痛みを与えることができるのはいいけどね」

「…お前はそれを付与しておかないとこの世界の人々を根絶やしにしかねない」

「えへへ………ぼくぅ…そんなことしないよぉ……」


少年は甘い笑みを浮かべながら座禅を組む伍城に囁いた。


「……殺生をする暇があるのならあの子らを見守ってこい…まだ禅は終わらんからな」

「…それもそうだね……あの子達が戦ってる所はまだ見たことないし」


そう言って少年は立ち上がり山の方を見て、呟いた。


「まさか…聖龍とか邪龍程度になんかには負けてないよね……」













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