突然のメール
「まぁいいや…とりあえず兄さんに……先に話しておかないといけない事がある」
ミユキさんは光の無い目で、暗い眼差しの樹一郎さんの目を見つめながら話し始めた。
「なんだ……?」
「…父さんが…兄さんをヤタガラスへ入れない理由…」
「……ッ!」
すると樹一郎さんは目の色が変わり、前のめりになってミユキさんを見た。
「俺を…入れない……理由…」
「うん!」
「……そ…その理由とは何だ…!?」
樹一郎さんが興奮気味で尋ねると、ミユキさんは少しの沈黙の後に答えた。
「…兄さんは……今まで真っ当に育ってきた…だからだよ」
「真っ当…だと!?」
「そう……もう血の味が…忘れられなくなってしまった僕と違ってね…」
そしてミユキさんは、ジュースを飲んだ後に続けて言った。
「……父さんは兄さんに…戦いの世界へ入らず……真っ当に育ってほしいと思っていた…だから兄さんにヤタガラスの事を隠してきた…」
「……………そう…だったのか…」
樹一郎さんは眉間にシワを寄せて、俯いていた。その顔は少し悔しそうだった。しかしその後に『フッ』と笑うとミユキさんへ言った。
「俺は…どうやら大きな勘違いをしていたようだな…」
「……………」
「…てっきり……お前のように強くないから…入らせてくれないのかと思っていた……」
「……父さんは…兄さんに真っ当に育ってほしかったから…ヤタガラスになってほしくなかったんだよ…
そして、ミユキさんはいつものように戯けながら、樹一郎さんへ続けて言った。
「…それに…『樹一郎は優しいから、人を傷付ける事ができないから』…とも言っていたよ!」
「……フン…俺は言うほど優しくないぞ…」
ミユキさんと、樹一郎さん。二人は笑みを浮かべ、楽しそうに話していた。すると、ミユキさんが樹一郎さんへ尋ねた。
「………それで…もう兄さんが自分の為に戦う必要は無くなったけど…これからどうするの?……戦いをやめる…?」
「……………フン…」
樹一郎さんは鼻で笑うと、ミユキさんへ答えた。
「…俺は……俺の為に…戦う必要が無くなった……俺の為には…な……」
「……え?」
すると樹一郎さんは、笑みを浮かべながらミユキさんへ尋ねた。
「ミユキ…お前は俺に『悪神討伐を手伝ってくれ』と言いに来たのだろう?」
「…まぁね」
そして、刀を持つと樹一郎さんは俺達を見ながら言った。
「俺は…俺以外の奴等の為に戦う事にする…」
「…と言うと…?」
「……お前達の神殺し…俺も助太刀する…」
樹一郎さんは、俺達の悪神討伐を手伝ってくれるようだ。それを聞いたミユキさんが、樹一郎さんへ言った。
「…ふふ……ありがとう…兄さん…」
「久しぶりに……お前のそんな顔を見たような気がする……フン…それにしても……弟の顔を見て久しいと感じるとは……俺も年だな…」
「精神年齢は20代だけどね!」
その時、ミユキさんのスマコへメールが届いた。そのメールを見て俺達は絶句した。
「……え?」
「…これは……」
[第一捜索隊が悪神の眷属に襲われ、瀕死の模様]
第一捜索隊は確かイリスさんとバラドさん、そしてエルアトラのチームだった。すると樹一郎さんが、刀を持って立ち上がった。
「…行くか」
「そだね…」
ミユキさんも立ち上がったので、俺達も立ち上がってレストランの外へ出た。
「…4985Gで……ッて…コレ1000000Gじゃないスカ!?」
「釣りはいらんッ!」
……
「来たよ!」
「……お前が樹一郎か…」
「ああ」
俺達が魔王城へ来た頃には、王達が集まっていた。第一捜索隊以外の聖騎士と魔王の四騎士達は、捜索を続けているという。俺達は今までの経緯を簡潔に説明した。
「…なるほどな……」
「それで…第一捜索隊は?」
「……ここだ」
部屋へ入ると、そこには重傷のイリスさんとバラドさん、魔王の四騎士エルアトラがいた。イリスさんは意識が無く、バラドさんは右足、エルアトラは両腕が無くなっていた。
「…これは酷い…」
「……クソ…まさか……あそこまで強いとはな…」
「…回復魔法を使ってみたが……治らない…恐らくスキルによる攻撃だからだ…」
するとミユキさんは三人に近付くと、一人一人へ何かを一滴ずつ垂らしていった。
「これでどうかな?」
「…う…ぉぉ…!?」
その瞬間、バラドさんとエルアトラの欠損していた部位が再生していった。一体どうなってんだ!?
「僕の血ってね……A型でも…B型でも…O型でも…AB型でもない……だからどんな血液型の人にも輸血できるし……一滴垂らすだけで…どんな傷や病も治す事ができるらしいんだ……」
「えぇ…どうなってんだよ…」




