ミユキvsキイチロー
「ヤタガラスかぁ……ふふ…今頃父さんはどうしてるのかな…」
その瞬間、ミユキさんはいつのにか樹一郎さんの懐へ潜り込んでいた。
「ありゃりゃ?…随分簡単に懐へ入れてくれたね…」
そしてミユキさんは、樹一郎さんに向かって包丁を振り下ろした。
「…ん?」
しかし、ミユキさんは何故かその横を斬っていた。するとミユキさんは、突然笑い出した。
「アハハハッ!……すごいや兄さん!…もうソレすらも…コピーしちゃったのか!!」
「…まぁ…完全に…ではないがな…」
俺は何が起きたのかが、全然分からなかった。すると十郎が、そんな俺に言った。
「避けたのですよ…それも……とてつもない速度で…」
「……なに…?」
すると樹一郎さんが、笑うミユキさんへ言った。
「俺は…お前を倒す為に……鍛錬していたのだからな…」
「…ハハ……まぁ…だけど……それだけじゃあ勝てないよ!!」
ミユキさんは、凄まじいスピードで樹一郎さんへ斬りかかった。樹一郎さんは眉一つ動かさず、刀を構えた。
「フフッ……かかった…」
『…なに……ッ!?』
樹一郎さんは斬撃を何とか受け流しているが、額には少量の汗、そして少し焦りの表情を見せていた。
「……予想後のタイミングを…ずらしたのか…」
「そうだよ……達人は相手の攻撃する瞬間の動きを見て…どう来るか予想し…回避や受け流しをする事が多い…だから……予想した後に動きを変えると…回避…受け流しという選択肢を潰す事ができる…」
ミユキさんは包丁を振りながら、樹一郎さんへ説明した。
「…反射神経だけでさばくしかないな……」
「まぁ…兄さんは……反射神経だけでさばく事ができるようだけどね……」
そして、ミユキさんは包丁で思い切り樹一郎さんの太刀を突いた、強烈な突きを受けた樹一郎さんは思わず後退りした。
「兄さん……これ…君にとってマズい状況なんじゃない!?」
ミユキさんが樹一郎さんの元へ、間合いを詰めようとした瞬間、ミユキさんは間合いを詰めるのをやめて、少し離れた。
「おっとっと……隠し玉を持っていたんだね!」
「…フン……良い判断だな………近付いてきた瞬間…使おうと思っていたが…」
すると樹一郎さんは、スマコからハンマーを取り出した。それもかなりデカい、何十kgはありそうな。
「……第二形態…ってわけか…!」
「…親父へ挑む際に取っておいた物だが……仕方ない…」
樹一郎さんは右手に太刀、左手にハンマーという『筋力どうなってんだよ!』と言いたい装備になっている。
「ごめんね?…僕相手に使わせちゃって!」
「…いや……元はお前との戦いの為に取っておいたものだ…」
その瞬間、樹一郎さんはミユキさんに向かって、思い切りハンマーを叩きつけた。ミユキさんはすかさず避けたが、樹一郎さんはすぐに太刀で斬りかかった。
「…よくそんな重い物を振り回せるね……凄いよ…!」
「……それでも…力はお前に負けるがな…」
そして樹一郎さんとミユキさんは、お互いに距離を取って離れた。
「…このままでは……決着が付きそうにないね…」
「……読み合いにするか…」
樹一郎さんは、スマコの中にハンマーをしまうと、居合斬りの構えを取った。
「…読み合い…か……兄さん…相手の考えを読む事できるの?」
「当然だ…」
その瞬間、ミユキさんは樹一郎さんとの間合いを高速で詰めた。すると鉄と鉄のぶつかる音が響き渡った。
「ホントだ…ちゃんと読めてるね…!」
「…当然だ」
ミユキさんが、目にも留まらぬ速さで振った包丁を、樹一郎さんが凄いスピードで抜刀して弾いたのだ。
「何が起きてんだ?」
周りの人達は見えていないようだったが、俺と十郎にはしっかりと見えていた。
「……けど…読み合いだと決着がつかないからなぁ…」
「………………」
するとミユキさんは、包丁をしまって樹一郎さんへ言った。
「…お互いに背中を合わせて……3歩進んだ瞬間に振り向いて攻撃する…ってのはどう?」
「……いいだろう」
樹一郎さんは刀を鞘に納めると、ミユキさんと背を合わせた。
「…やっぱり兄さん……背が高いねぇ……いいなー…」
「…………」
そしてミユキさんと樹一郎さんは、武器を納める鞘を持って歩き始めた。
「「I」」
ミユキさんは、不敵な笑みを浮かべている。
「「II」」
樹一郎さんは、とても真剣な眼差しをしている。
「「Ⅲ」」
ミユキさんと樹一郎さんが、三まで数え終わった瞬間だった、樹一郎さんは抜きかけていた刀を、鞘へ納めた。
「…え……!?」
「何故…抜かなかった…?」
そして背を向けながら、樹一郎さんはミユキさんへ悔しそうに言った。
「……お前の勝ちだ…今日のところは…だがな…」




