樹一郎と魅由樹
『…これ…は…』
「あ!…あなたですよね!?…許可無しでこの世界へ転移したのは!?」
「お前は…」
「すみません…私……ゴッドカンパニーの者です…」
突然現れた神から教えてもらった事だが、他の世界へ行くには神の許可を得る必要があったのだ。神の許可無しで他の世界に行けば、普通は弾かれる。
だが、強大な力を持つ者はそれすら無効化して世界へ入る事ができるという。俺はその力の片鱗を持っていたようだが、不完全だったようで、世界に入れた代わりに、凄まじいスピードで老化していたのだった。
「…対処が遅れ…すみません……至急…肉体を戻して…あなたの元いた世界へ送りますね…!」
「……なぁ…」
「…何でしょうか…」
俺は元いた世界へ一時的に戻り、親父が飾っている刀を盗み、置き手紙をして神の元へ戻った。
「本当によろしいのですか?」
「ああ…テオロンへ送ってくれ」
その神の許可を得て、俺はテオロンへ転移した。するとその神が、少し怖気ながら俺に尋ねた。
「……迷惑をかけたとはいえ…勝手に他の世界へ人を転移させて…会長に怒られないかな……」
「テオスの事か…大丈夫だ……お前を責めるなと…置き手紙にも書いてある…」
“親父へ、俺は他の世界へ行くからアンタらの前から消える。だが、探さないでくれ。なるべく早く帰ってくるから、その時に刀も返す。テオスへ、俺を異世界へ転移させた神を、責めないでくれ。俺が異世界へ行くのも、親父達の前から消えるのも、全て俺の判断だからだ”
「………ならいいですけど…それじゃあ…帰りたくなったらスマコでメール下さいね!」
「ああ」
「あと!…なるべく早く帰るようにして下さいよ!……あなたの存在を隠すのも大変なんですから!」
「ああ」
そうして、俺はテオロンへと戻り、再び強くなる為に戦った。その後に無喰流を創り、ミノルを弟子にした。その過程で、俺の中にあった強大な力も覚醒した。そして、現在に至るという事だ。
……
「まぁ…この身体を戻すにはゴッドカンパニーにある道具を使う必要がある為…テオスに気付かれる……だからこれ以上老化しないものの…身体はこのままだ…」
「…別の世界って……テオロンの事だったんだ……兄さんの事だから…天使とか悪魔とかが一杯いるような…ヤバい世界へ行ってるのかと思ったよ」
そして樹一郎さんは話し終えると、刀を持って立ち上がり、ミユキさんの方を見た。
「……とりあえず…ここで再会したのも何かの縁だ……ミユキ…俺と戦え…」
「…ふふ……目の色が…昔より暗くなってるね…兄さん…!」
樹一郎さんは暗い目をしながら、ミユキさんは笑顔で外へ出て行った、それを見ていた俺達も急いで外へ出た。
……
「決着はどう決める?」
「生殺与奪の権利を持つ者が勝ちで…」
「……無名スタイルね…」
シントウキョーから、少し離れた場所。樹一郎さんは太刀、ミユキさんは包丁を持っている。
「あのミユキさんと…」
「…あのキイチローが…」
そしてそれを遠目で、俺達とシントウキョーの住民達は見ていた。
「キイチロー…最初に聞いた時はまさかと思ったけど……強くなったんだね…兄さん…」
「…まだ道は半ばだ……」
樹一郎さんは刀を無造作に垂らしながら、ミユキさんへ言った。
「……完璧人間の最高傑作…そのお前を倒し……親父を超えて………俺は…ヤタガラスに成る…ッ!!」
「へぇ…!」
ミユキさんも包丁を無造作に垂らしながら、樹一郎さんへ言った。
「ヤタガラスかぁ……ふふ…今頃父さんはどうしてるのかな…」
その瞬間、ミユキさんはいつのにか樹一郎さんの懐へ潜り込んでいた。
「ありゃりゃ?…随分簡単に懐へ入れてくれたね…」
そしてミユキさんは、樹一郎さんに向かって包丁を振り下ろした。
「…ん?」
しかし、ミユキさんは何故かその横を斬っていた。するとミユキさんは、突然笑い出した。
「アハハハッ!……すごいや兄さん!…もうソレすらも…コピーしちゃったのか!!」
「…まぁ…完全に…ではないがな…」
俺は何が起きたのかが、全然分からなかった。すると十郎が、そんな俺に言った。
「避けたのですよ…それも……とてつもない速度で…」
「……なに…?」
すると樹一郎さんが、笑うミユキさんへ言った。
「俺は…お前を倒す為に……鍛錬していたのだからな…」
「…ハハ……まぁ…だけど……それだけじゃあ勝てないよ!!」
ミユキさんは、凄まじいスピードで樹一郎さんへ斬りかかった。樹一郎さんは眉一つ動かさず、刀を構えた。
「フフッ……かかった…」
『…なに……ッ!?』
樹一郎さんは斬撃を何とか受け流しているが、額には少量の汗、そして少し焦りの表情を見せていた。
「……予想後のタイミングを…ずらしたのか…」
「そうだよ……達人は相手の攻撃する瞬間の動きを見て…どう来るか予想し…回避や受け流しをする事が多い…だから……予想した後に動きを変えると…回避…受け流しという選択肢を潰す事ができる…」
ミユキさんは包丁を振りながら、樹一郎さんへ説明した。
「…反射神経だけでさばくしかないな……」
「まぁ…兄さんは……反射神経だけでさばく事ができるようだけどね……」




