姉弟と二人の魔族
「なッ……何を…」
「………ここにいる奴……全員ぶっ飛ばす…!!」
アザミは悪魔の如く暴れ、人間と魔族の両者へ甚大な被害をもたらした。
「……ぐ…うう……」
「…ぅぁ……」
人間と魔族がいなくなった事を確認すると、アザミはその場から姿を消した。
……
「……アザミ…何故……」
満身創痍の魔族達が、街でへたり込んでいるとケビンが魔族達へと言った。
「…みんな!……聞いてくれ!!」
魔族達がケビンの方へ向き、ケビンは少し間を置いた後、話し始めた。
「……俺達魔族は…いつから獣となったんだ!…今こそ知能のある種族…魔族へ戻らなければならない!」
「…獣?」
「このまま…ただ人間を殺すだけの獣になり下がれば……魔族は絶滅するだろう…!」
そして、魔族の視線を浴びながらケビンは、叫んだ。
「ではどうすればいいか……まずはこの魔族という種族を統率する王が必要だ…!」
「…王……だと?」
魔族達がざわめくと、ケビンはポケットの中から鍵を取り出した。それを見て魔族達は更にざわめいた。
「……それは…クリスタルの世界へ入る為の鍵!!」
「確か…人間と魔族の王しか持てない筈…」
「ああそうだ……だが俺は持つことができる…それは何故か……それは…俺がクリスタルの世界での魔族の王の…息子だ!!」
それを聞いた途端、ざわめいていた魔族達は静かになった。
「ケビンが…王の息子……」
「…これからは王の血を引く俺が……魔族を導く!!……だから…ついてきてくれないか!?」
「「「う……うおおおお!!」」」
ケビンの言葉に言霊が、説得力があったからか、一瞬の沈黙の後に魔族達は、アザミの事を忘れる程圧倒され、歓声を上げた。ケビンの背後には、後光が射していた。
「今日から……俺は魔王と名乗る……」
「魔王様!!…魔王様の誕生だ!!」
歓声が上がる中、ケビンは手を上げた。すると歓声が鎮まりかえった。
「最初に言っておく……俺は人間を絶滅させようと思っていない…」
「…え!?」
再び魔族達は、ざわめき始めた。ケビンはざわめく魔族達へ続けて言った。
「……人間が悪だと…家族の仇の為だと理由をつけて…人間とその家族を虐殺する…理由があろうとなかろうと…それはただの民族虐殺だ!……俺達のやってる事は…かつての人間のしていた事と同じだ!!」
「た…確かに……」
そしてケビンは、自分の考えを魔族達へ叫んだ。
「だから…無駄な殺傷はせず……戦力の差を見せつけ…二度と俺達と戦おうと思えないようにする……それこそ…本当の勝利ではないだろうか!?」
「「おおお!!」」
「確かに…!!」
そうしてアロンという国と、魔王軍が誕生したのだった。
……
「……ここで…いいだろ…」
「…そうだな……」
レイド大陸が見えるライド大陸の端に、アザミとヒルガオ、ケビンは来ていた。
「………この子のおかげだ…」
「…何がだ?」
「この子とヒルガオのおかげで…人間にも……家族がいるという当たり前の事に気付けた…」
「……ケビン…」
ケビンは眠っているように、目を瞑っているカスミを見ながら言った。するとアザミは、カスミを見ながら言った。
「…カスミ……お前…ケビンが帰った後に…言ってたよな?」
“魔族って…みんなあんな人なの?”
“……アイツが変わってるだけだ…”
“…そうなんだ……だけど…魔族である…あなたやケビンと話してみて感じたよ…”
“何をだ?”
“…今の魔族と人間は…分かり合えないと決め付けてるだけで……いつか分かり合える時が来る!…ってね…”
「お前の予言は当たったぜ……少なくとも二人…人間と打ち解けた魔族がここに…いるからな……」
アザミとケビン、ヒルガオは顔を見合わせて微笑んだ。そしてアザミが棺桶の蓋を閉めると、ケビンが言った。
「………それじゃあ…そろそろ……」
「……ああ」
「…そうだね…」
三人は魔法で、棺桶を燃やした。その後に燃える棺桶を、ジッと見つめていた。
「姉ちゃん…さようなら……さようなら…ッ……」
「…カスミ……じゃあな……」
「……ゆっくり…眠ってくれ……」
そして、燃え尽きた後に地面にある灰を集めた。
“私が死んだら?…うーん……適当に撒いていいよ!”
「…………ここに撒こうか…」
「…そうだな……」
カスミの灰を地面に撒いた後、三人は静かに黙祷した。太陽の日差しが赤く燃え、三人の立つ場所を照らしていた。黙祷をし終わって、ヒルガオが呟いた。
「……姉ちゃん…俺……これからどうすれば…」
「…ヒルガオ」
すると涙目のヒルガオに、アザミが言った。
「実は…お前と……カスミに言おうとしていた事があるんだ……」
「なに…?」
「……人間の住む村を発見した…このライド大陸にな…」
「…え…?」




