魔王誕生
「何があった!?」
「……そ…そいつらが襲いかかってきて……って!…ね……姉ちゃんは!?」
「あ!?」
するとヒルガオは、ゆっくりと起き上がって歩いていった。
「お…おい……無茶するな!」
「…姉ちゃんは……」
アザミとヒルガオが、灰色の巨木の元へ歩いていくとそこには、血に濡れたカスミの姿があった。
「姉ちゃ…ん……」
「ウソ…だろ…ッ!?」
胸から血が流れているカスミを抱き抱え、何度も叫んだ。
「おい!!…しっかりしろ!!」
「ねえちゃ…」
「…こんな傷………ほら…血は止めたぞ!!…よし!ヒルガオ!…運ぶんだ!」
ヒルガオは、獣のように叫ぶアザミへ、突き放すように言った。
「あ…ザミ……姉ちゃんは…」
「…そんな筈ねぇ……信じねぇ…!!……そうか…心臓が止まってんだな!…いま…心臓を動かしてやるから!」
アザミは何度も、カスミへ心臓マッサージを行った。しかしカスミは、眠っているかのように静かだった。
「アザミ!!」
「うるせぇ!!…黙ってろ!!」
……
「……カスミ…」
アザミは家の中にカスミを運び、ベッドに横たわらせた。すると傷を手当てされたヒルガオが部屋へ入ってきた。
「…ヒルガオ……何があったんだ…」
「………姉ちゃんは…魔族に殺された…」
「なに?」
ヒルガオは、あの時に何があったかを事細かに説明した。
「俺と姉ちゃんは…帰ろうとした時に魔族に襲われた……俺が魔族に…気を取られている時に…姉ちゃんは…」
「……………」
「姉ちゃんの胸に…魔族の爪が…」
「……もういい…分かった…」
アザミは涙で、顔が見えないヒルガオへ優しくそう言った。
「…俺が…生きて……何で姉ちゃんが……」
「…………………」
無言のまま、アザミは家の外へ出て行った。すると、家の外にいたケビンがアザミへと尋ねた。
「………何をしに行くつもりだ?」
「……分かってるだろ…」
するとケビンは帽子を深く被り、少しの沈黙の後に突然、わざとらしくアザミへ魔法を付与させた。
「…おっと!……間違えてアザミに…身体強化の魔法を付与してしまった!」
「……………」
「……我は忘れるな…そして…殺しだけはするな……その状態で殺しをすれば必ず…墜ちる……」
「…ケビン……」
そしてケビンは、アザミの背中をポンと叩いて言った。
「効果が切れる前にさっさと行け……そして…獣と化した魔族共をぶちのめして来い!」
「……ああ…」
アザミは、目にも留まらぬ速さで魔族のいる方角へと向かっていった。
「………ただ…人間を滅ぼそうとする獣と化した魔族に…今こそ伝えるべきだな……あの考えを…」
……
「クソ…人間共め……」
「お…おい!!…何だアイツは!?」
人間と魔族、戦っている両者の間に、奇妙な面の男が突如降ってきた。
「………魔族だ…」
「それに…あの角……アザミだ!!」
男の正体がアザミという事を知った人間達は、思わず後退りした。
「う…うおおお!!」
アザミは人間達へ襲い掛かると、獣のように人間達を無力化していった。
「アザミ…戻ってきたのか?」
「…アザミがいれば……!」
その瞬間、アザミの蹴りを食らった魔族は倒れた。魔族達も、人間と同じく後退りした。
「なッ……何を…」
「………ここにいる奴……全員ぶっ飛ばす…!!」
アザミは悪魔の如く暴れ、人間と魔族の両者へ甚大な被害をもたらした。
「……ぐ…うう……」
「…ぅぁ……」
人間と魔族がいなくなった事を確認すると、アザミはその場から姿を消した。
……
「……アザミ…何故……」
満身創痍の魔族達が、街でへたり込んでいるとケビンが魔族達へと言った。
「…みんな!……聞いてくれ!!」
魔族達がケビンの方へ向き、ケビンは少し間を置いた後、話し始めた。
「……俺達魔族は…いつから獣となったんだ!…今こそ知能のある種族…魔族へ戻らなければならない!」
「…獣?」
「このまま…ただ人間を殺すだけの獣になり下がれば……魔族は絶滅するだろう…!」
そして、魔族の視線を浴びながらケビンは、叫んだ。
「ではどうすればいいか……まずはこの魔族という種族を統率する王が必要だ…!」
「…王……だと?」
魔族達がざわめくと、ケビンはポケットの中から鍵を取り出した。それを見て魔族達は更にざわめいた。
「……それは…クリスタルの世界へ入る為の鍵!!」
「確か…人間と魔族の王しか持てない筈…」
「ああそうだ……だが俺は持つことができる…それは何故か……それは…俺がクリスタルの世界での魔族の王の…息子だ!!」
それを聞いた途端、ざわめいていた魔族達は静かになった。
「ケビンが…王の息子……」
「…これからは王の血を引く俺が……魔族を導く!!……だから…ついてきてくれないか!?」
「「「う……うおおおお!!」」」
ケビンの言葉に言霊が、説得力があったからか、一瞬の沈黙の後に魔族達は、アザミの事を忘れる程圧倒され、歓声を上げた。ケビンの背後には、後光が射していた。
「今日から……俺は魔王と名乗る……」
「魔王様!!…魔王様の誕生だ!!」




