花散
アザミは少しの沈黙の後にケビンへ、今までの経緯を説明した。
「だから……俺は魔族と人間の争いにはもう参加しない…」
するとケビンは俯いたまま、震えていた。アザミが「どうした?」と肩に手を乗せた瞬間、ケビンは両手でアザミの肩を掴むと叫んだ。
「その少女に!……その少女に会わせてくれ!!」
「…私が……その少女だけど?」
アザミ、そして鼻水と涙で顔が汚れているケビンが、声のする方へ向くとカスミが立っていた。
……
「な…なんて可哀想なんだ!!」
家の中で、ケビンは号泣しながら言った。アザミに渡されたハンカチで顔を拭くと、ケビンは凛々しい顔で言った。
「……俺は…健気な子供を……応援する…!」
「…あなたと同い年だけどね」
ケビンはバッグの中から、食糧と薬を取り出して机の上へ置いた。
「これは少ないが…君達にやる!」
「え?…いいの?」
「ああ……そしてこれから毎週…君達の家へ食糧と薬を持っていこう……この大陸には食糧が少ないからな…」
カスミとヒルガオは、戸惑いながらもケビンへ礼をした。
「あ…ありがとう……」
「君達のように子供でありながら……健気に生きる者を見ると……助けずにはいられないんだ…!」
「…………子供…」
そうしてケビンの助けもあり、カスミとヒルガオとアザミは、安定した生活を送りましたとさ。
「………………人間の…少女……だと?」
「ああ…この大陸にいるらしい……確かに見た奴がいるそうだ…」
「それに…複数の目撃例もある……すぐに逃げられたようだが……」
魔族の街では、ライド大陸に人間がいるという噂で持ちきりだった。
「…人間は…見つけ次第殺せ…!」
「「おお!」」
影でそれを見ていたケビンは、冷や汗をかいていた。
「………ヤバイ事になったな…」
『あの子達を見た奴がいたのか……クソ…』
……
「…なんだと!?」
「あの大陸に人間が……」
「はい…魔族と行動している少女を…兵士が目撃したそうで……」
人間達の間でも、ライド大陸へ住む人間の事で騒がれていた。するとそんな時、1人の魔法使いが人間の王達へと言った。
「それは恐らく…魔族へ加担している魔女でしょう……人間だからと言って野放しにしておけば…災いをもたらすでしょう…」
「…あの魔族の大陸へ……それも魔族と共に住んでいる…
「魔族に加担している可能性は高いな…」
魔法使いはそれを聞いて、ほくそ笑んでいた。
『……カスミ…私に従っておけば……追放される事も…死ぬ事もなかったのになぁ…!』
……
「…………遅いな…大事な話があるって言ったのに…」
カスミとヒルガオの帰りが、あまりにも遅い事に不審に思ったアザミは、二人が行った方角へと走っていった。
「…なんだ?」
灰色の木々が生えている場所へ着くと、その木の下に数人の人間が集まっていた。
「……ッ!!」
人間の隙間から見えたのは、傷だらけのヒルガオだった。
「魔女の…眷属か何かか?」
「まぁいい…殺せとの命令だ」
「つーか…何で傷だらけなんだ?」
「お…おい!!」
アザミは人間を軽く蹴散らすと、ヒルガオへ尋ねた。
「何があった!?」
「……そ…そいつらが襲いかかってきて……って!…ね……姉ちゃんは!?」
「あ!?」
するとヒルガオは、ゆっくりと起き上がって歩いていった。
「お…おい……無茶するな!」
「…姉ちゃんは……」
アザミとヒルガオが、灰色の巨木の元へ歩いていくとそこには、血に濡れたカスミの姿があった。
「姉ちゃ…ん……」
「ウソ…だろ…ッ!?」
胸から血が流れているカスミを抱き抱え、何度も叫んだ。
「おい!!…しっかりしろ!!」
「ねえちゃ…」
「…こんな傷………ほら…血は止めたぞ!!…よし!ヒルガオ!…運ぶんだ!」
ヒルガオは、獣のように叫ぶアザミへ、突き放すように言った。
「あ…ザミ……姉ちゃんは…」
「…そんな筈ねぇ……信じねぇ…!!……そうか…心臓が止まってんだな!…いま…心臓を動かしてやるから!」
アザミは何度も、カスミへ心臓マッサージを行った。しかしカスミは、眠っているかのように静かだった。
「アザミ!!」
「うるせぇ!!…黙ってろ!!」
……
「……カスミ…」
アザミは家の中にカスミを運び、ベッドに横たわらせた。すると傷を手当てされたヒルガオが部屋へ入ってきた。
「…ヒルガオ……何があったんだ…」
「………姉ちゃんは…魔族に殺された…」
「なに?」
ヒルガオは、あの時に何があったかを事細かに説明した。
「俺と姉ちゃんは…帰ろうとした時に魔族に襲われた……俺が魔族に…気を取られている時に…姉ちゃんは…」
「……………」
「姉ちゃんの胸に…魔族の爪が…」
「……もういい…分かった…」
アザミは涙で、顔が見えないヒルガオへ優しくそう言った。
「…俺が…生きて……何で姉ちゃんが……」
「…………………」




