魔族青年ケビン
「…今日から一年……俺はアンタの言う事をなんでも聞く……命を助けてもらったんだ…それくらいして当然だ…」
「……どうすんの?…姉ちゃん…」
「…仕方ないわね……分かった……一年よろしくね…」
「……ああ…!」
そうして魔族と人間の、奇妙な関係が始まったのだった。
「それは…そこに置いといて」
「ああ」
最初の頃は、お互いに気を遣ったりしていた。
「……これ…あげるよ…」
「なんだこれ…」
「…………虫…一応食べれるよ」
「お前…こんなの食ってんの?」
しかし年が経つにつれ、溝は段々と狭まっていった。アザミも、カスミも、ヒルガオも、打ち解けていった。
「……一ついいか?」
「…うん?」
「なに…?」
アザミは食卓の上で、二人へ言った。
「……最初は…一年……アンタの言う事を聞いて…出て行こうかと思ったが……」
「………うん」
「…ここに来て……忘れていた家族の温もりを思い出せた……」
照明の下で、カスミとヒルガオは、静かに話を聞いていた。
「……ずっと…ここにいても……いいか?」
「いいけど?」
「いいんじゃない?」
「お前ら…即答だな…」
カスミとヒルガオがそう答えると、アザミは少し嬉しそうに言った。
「…それじゃあ……これまで通り…手し」
「いや…家族だ!」
「え?」
ヒルガオがアザミへと叫んだ、アザミは目を丸くしている。
「もう手下じゃない…お前は……家族だ!!」
「…そうだね……ずっとこき使うのも疲れるし……」
「……………ッ…」
「泣くなよ…相変わらず涙もろいな…」
目から液体が流れるアザミへ、カスミとヒルガオが寄り添いながら言った。
「…泣いて…ッ……ねぇよ…ッ……」
「思い切り泣いてじゃないか…」
「ふふ…改めて……今日から…よろしくね!」
「…………ああ……」
……
ライド大陸には人間と、魔族の家族がいる。その家族は、幸せに暮らしていた。その家族の家から少し離れた場所にある、魔族の住む場所にて。
「……アザミ………何処へ行ったのだ…」
「……………」
「クソ…今度の進行では……先陣切ってほしいのだが…」
魔族達は、一年前から行方が分からなくなった、アザミという魔族を探していた。
「…アザミ……」
ケビンという青年が、かつてアザミのよくいた橋でいつも通り立っていると、遠くの方にアザミらしき人物がいた。
「アザミ!!」
しかしその影は、すぐに消えていった。ケビンは急いでその人物のいた場所へ走ると、痕跡が残っていた。
『………これを…辿れば……もしかしたら…』
ケビンは痕跡を辿っていった、すると小さな家へと行き着いた。ケビンは念の為気配を消して、家の窓から中を覗いた。
「…誰だ」
「……ッ!!」
声を聞いたケビンが、声のする方へ振り返るとそこには、アザミの姿があった。
「アザミ…!」
「…ケビン…!?」
お互いの顔を見た二人の間に、沈黙が続いた。そしてその沈黙を破ったのは、ケビンだった。
「お前…こんな所で何してんだよ!」
「………………お前には話そう……この家の奴等と同じ…本当に信頼できる奴だからな……」
そして、アザミは少しの沈黙の後にケビンへ、今までの経緯を説明した。
「だから……俺は魔族と人間の争いにはもう参加しない…」
するとケビンは俯いたまま、震えていた。アザミが「どうした?」と肩に手を乗せた瞬間、ケビンは両手でアザミの肩を掴むと叫んだ。
「その少女に!……その少女に会わせてくれ!!」
「…私が……その少女だけど?」
アザミ、そして鼻水と涙で顔が汚れているケビンが、声のする方へ向くとカスミが立っていた。
……
「な…なんて可哀想なんだ!!」
家の中で、ケビンは号泣しながら言った。アザミに渡されたハンカチで顔を拭くと、ケビンは凛々しい顔で言った。
「……俺は…健気な子供を……応援する…!」
「…あなたと同い年だけどね」
ケビンはバッグの中から、食糧と薬を取り出して机の上へ置いた。
「これは少ないが…君達にやる!」
「え?…いいの?」
「ああ……そしてこれから毎週…君達の家へ食糧と薬を持っていこう……この大陸には食糧が少ないからな…」
カスミとヒルガオは、戸惑いながらもケビンへ礼をした。
「あ…ありがとう……」
「君達のように子供でありながら……健気に生きる者を見ると……助けずにはいられないんだ…!」
「…………子供…」
そうしてケビンの助けもあり、カスミとヒルガオとアザミは、安定した生活を送りましたとさ。
「………………人間の…少女……だと?」
「ああ…この大陸にいるらしい……確かに見た奴がいるそうだ…」
「それに…複数の目撃例もある……すぐに逃げられたようだが……」
魔族の街では、ライド大陸に人間がいるという噂で持ちきりだった。
「…人間は…見つけ次第殺せ…!」
「「おお!」」
影でそれを見ていたケビンは、冷や汗をかいていた。
「………ヤバイ事になったな…」
『あの子達を見た奴がいたのか……クソ…』




