人と魔
人魔戦争が終わり、倒され魔素となった魔族と、捕まった魔族は牢に入れられた。我等は殺されて、武器にされると思っていた。
「……何故…我等を殺さぬ……」
「……………」
「…牢に入れて……一ヶ月以上は経っている筈だぞ……」
牢の前に来たレクスへと尋ねた、するとレクスはそんな我へと言った。
「何故…殺さなければならぬのだ?」
「…は……」
「……無駄な殺しは…良くないだろ……常識的に考えて…」
人間は魔族を殺す気は無かった、しかも、牢に囚われている我にしっかりと一日三食くれた。
『………人間は…思っているよりも……悪い存在ではないのか…?』
するとそんなある日、レクスと女子のような少年が牢へと入ってきた。
「…何だ……その餓鬼は…」
「……この子が…君を武器にしたいと言ってな…」
「ほう…」
我を殺し、武器にする。やはり人間は、魔族を平然と殺し武器にする野蛮な種族だと、その瞬間は思っていた。
「……フン…やはり我を殺して…武器にするか…」
「いや……別に武器になるのに…死ぬ必要はないぞ…?」
「なに?」
「…武器を作る時は…魔素をそのまま…使う…だから死ぬわけではない…」
武器にされたら、死ぬと聞いていたが、どうやら死なないらしい。
「そうか……死なないのか…」
「ああ」
死なないという事が分かった我は、レクスへと言った。
「……なら…さっさとするがいい……」
「…………随分と素直だな」
我は不思議な気持ちだった、口もききたくないと思っていた人間と、普通に会話しているのだからな。
「今ので確信したからな…お前達人間は……魔族の殺しを愉しむ…野蛮な奴等ではない…ということが…」
「…エルアトラ」
「……それに…お前等が運んでくる食い物…その一つである…粉雪アイス…だったか……あのような美味なるものを毎日貰っているのだ…少しはそっちの頼みも聞いておかぬ…と思ってな…」
「…そこまで美味かったか…粉雪アイス……」
……
「……無駄な話をし過ぎたな……さぁ…武器にしろ…」
「………その前に…いいか?」
「なんだ…」
レクスはエルアトラに、十郎と勝負をしてくれと頼んだ。エルアトラは理由を尋ねた。
「…何故…その餓鬼と?」
「……この子に…エルアトラに勝てれば……お前を使った武器と…欲しいものを渡すと言ったからな」
「…なるほどな」
「それに…お前も血が滾っていると思ってな…」
するとエルアトラは、十郎を睨みながらレクスへと言った。
「いいだろう……」
……
「そうして…我はその餓鬼に負け……武器となったわけだが…」
「…話が長いな…エルアトラよ…」
「まぁ…もう少し聞いてくれ…」
エルアトラは、魔族達へ続けて話し始めた。
「……武器へと変えられた我は…十郎の武器となり……悪神探しの旅へと同行した…」
「………………」
「だが……武器へなった際に…意識が無かったわけではない…」
俺達を見ながら、エルアトラはシャルル達へと言った。
「我はずっと見ていた…人間というものを……」
「え?…それじゃあ……俺達の悪神探しの様子を……ずっと見ていた…のか?」
「ああ」
エルアトラは俺達が体験したり、見たり聞いたりした全ての事を、俺達と同様に見たり聞いたりしていたようだ、マジか。
「…ずっと人間を見ていた……そうしているうちに気付いた…」
「……………」
「魔族の民が世界を滅ぼす種族だと…悪だと言い張る人間は……悪ではないということにな…」
そしてシャルルの方へ向くと、締めくくるように言った。
「……人間を信じてみないか…?」
「…エルアトラ……お前がそこまで人間の肩を持つとはな……」
「…………我は…人間を信じてみる…騙されたと思ってな……」
しかしシャルルは、少しの沈黙の後にミユキさんへと言った。
「…だが……やはりまだ…信用はできない……お前達が…いつ裏切るか分から」
「……駄目です!…一般の方は…!」
部屋の外から兵士の声が聞こえてきた、少しすると扉が開いた。
「駄目ですってば!」
「…いや…人間は信用できる……私が保証しよう……」
「あ!…マスター!」
「…アンタは…」
扉を開けたのは、兵士に止められているアザミさんだった。
「ア…アザミさん!?」
「なに?……アザミ…だと…?」
俺がアザミさんの名前を言った瞬間、部屋にいる魔族達全員が凍り付いた。
「……あの[ザ・ビースト]…の……アザミ…?」
「…あぁ……確かに昔はそう呼ばれていたな……」
すると、アザミさんの肉体は変化していき、青年のような姿となった。
「…あ……あぁ…」
「伝説の……」
「……アザミさんってそんな有名人だったのか…!?」




