魔法使いを目指して
「…ユウトさんは?」
「多分あの丘にいると思うよ」
俺たちはホテルから出て街を見下ろせる丘に向かって歩いていた。そして丘に着くとユウトさんが地面に座っていた。
「……ッ…!」
ユウトさんの周りは烏が集まり、何羽か肩に留まっている。あの時は気付かなかったけど、髪はボサボサで結構長い、多分何ヶ月も切ってないんだろうな。
一見だらしないように見えるが、それが気にならない程の、とてつもない覇気を感じる。師匠と同じかそれ以上の……俺は思わず息を飲んだ。
「……ユウトさん」
反応は無い、俺は恐る恐る近付いた。烏が全羽一斉に飛んでいき、俺はビビった。だが俺は近付いて、肩を揺さぶり、顔を見た。
「………寝てる…」
目を瞑ってヨダレが垂れていた、寝てたのかよ。俺がもう一度ユウトさんの顔を見ると無表情で目を見開いていた。
「うおッ!?」
「悪い、少し寝ていた、それで何か用か」
「いや……改めて挨拶しようかなと…」
俺は恐怖のあまり、その場に腰をついていた。ユウトさんが俺に手を差し伸べてくれた。すると十郎がユウトさんに尋ねた。
「メルトさんは?」
「ああ、メルトはさっきからそこにいる」
「さっきからいるよ!」
木にもたれかかるメルトさんが叫んだ。
「…気付かなかった……すいません…」
「影が薄いからメルトは」
「そんな事言わないでくださいよぉ……」
すると、ユウトさんが俺の手を見て言った。
「…そのグローブ…敗れているな」
「ああ……グランドシャークを倒した時に破れたのか…」
「俺の手袋やるよ、ほら」
ユウトさんはメルトさんが貰い受けた手袋と同じものを俺に渡した。指先が開いており、素材は皮のようだ。
「え!?」
「メルトにあげた後にもう一双あったのを思い出した」
「……スペアなんて持ってたのですね…勇者様…」
メルトさんは苦笑いをしている。もう一双持ってたのかよ!……するとユウトさんは街の出口を見て言った。
「それじゃあ次の街に行くか」
「それもそうですね」
二人は丘の上から降りていった。
「……少女にしか見えない青年と武器を持たない青年…なんだか後ろ姿見てると君達みたいだね…!」
「そうか?」
……
「思ったんだけどよ」
「なに?」
俺は山へ向かう途中についてきたホワイトに尋ねた。
「……頂上にあるオリジンっていうものを取れば誰でも賢者級の魔法を使えるようになるんだろ?……なのに何で賢者級の魔法使いは少ないんだ?」
「あぁ…」
ホワイトは不気味な雰囲気を醸し出す山を見ながら答えた。
「……誰も到達できないからだよ…頂上には」
「何で?」
「…あの山には危険度SSのモンスターが2匹住処にしている。聖龍メギドと邪龍メギルという危険な龍だ」
「………なるほどね」
危険度SSのモンスターがいたとあれば、生半可な実力の人は近付けないわけだな。
「…十郎は楽勝だとして……俺も問題無いぜ!…ついさっきも危険度Sモンスターを瞬殺したからな!」
「……だといいけどね」
ホワイトはフードで顔は分からないが、少し心配そうに呟いた。そんな時に目の前から斧を持った緑色のモンスターが現れた。
「…あの時のオークみたいだな」
[ジャイアントゴブリン]
危険度C
ゴブリンの上位種。主に斧やハンマーや大剣を扱うが、知能は殆ど無く、動きも遅い。
「ジャイアントオークみたいな感じか」
「オークとは種が違うだけみたいですね」
俺たちが構えると辺りからこちらに向かってくる足音が無数に聞こえた。
「ジャイアントゴブリン…オークと違うのは………集団の規模さ」
「…なに?」
「ジャイアントゴブリン1匹につき……最低でも100匹はくだらない数のゴブリンがいる」
「ゴキブリかよ…」
すると俺たちの周りには小柄な緑色のモンスターが囲うように集まった。
「さぁ…どうするの?」
「……梅岡さんはジャイアントを頼みます…僕はゴブリンを殲滅しておくので」
「おいおい……ったく…死ぬなよ!」
俺はジャイアントゴブリンに向かって走って近付いた。ジャイアントゴブリンは斧を振り上げる。
「やはり遅いな!」
「ぐがッ!!」
俺は思い切り鳩尾をブン殴った。ジャイアントゴブリンはうめき声をあげて斧を落とした。
「休んでんじゃあ…ねぇぞ!!」
「うごッ!?」
そして俺は金的攻撃をした。ジャイアントゴブリンは叫び声をあげた、そして頭が下がった瞬間に思い切り頭を蹴り飛ばした。するとジャイアントゴブリンはその場に崩れるように倒れた。
「……やったぜ…そっちは……ッ!?」
俺は十郎の方を見て思わず絶句し、息を飲んだ。それは十郎の周りには大量の魔素が落ちていたからだ。この短時間であの数を……
「…すごいね…十郎君…」
「どっちがモンスターだよ…」




