再びアロンへ
「………僕の…この憎悪は……もう自分でも抑えられないのです…」
「………………」
「…すみません……梅岡さん…僕は貴方の声が届かない程……多くの憎悪を生み出してしまいますから…」
虚ろな目でそう言う十郎に、梅岡は元気付けるように言った。
「いや…お前のその憎悪は……人の業によるものだ……お前は悪くない…」
「いえ…それは違いますよ…」
十郎は梅岡に近付いて、光の無い目で見つめながら言った。
「…僕は人の業に取り憑かれていません……父さんや母さんの死に関わった人間を殺めたのは…全て僕の意思です…から…」
「………違う…お前はそんな奴じゃない……そんな筈は…」
「ホントだよ」
焦りながら呟く梅岡に、ミユキが言った。
「…十郎君は……人の業に取り憑かれていない…」
それを聞いて、梅岡は十郎の肩を掴むと強い口調で言った。
「……十郎…誓ってくれ……もう二度と殺しはしないと……」
「………………」
「…お前……悪神を殺したら……もう二度と元に戻れなくなっちまうぞ…!」
十郎は梅岡の声を聞いて、悟ったように言った。
「もうとっくに戻れませんよ……僕は…人を殺めたので」
「あぁ…その事だけど…」
梅岡と十郎の間にミユキが入ってきた。十郎と梅岡は目を丸くしている。
「……十郎君…君は人間を一人も殺していないよ…」
「……………何を…言ってい」
「君の仇は…全員……超重症で病院に何年もいる……けど…死んではいないからね…」
「……………何故…そんな…え……」
戸惑う十郎へ、ミユキは優しく微笑んで言った。
「君にはまだ……ほんの一欠片かもしれないけど…人の心が残ってる…」
「……人の…心…?」
「…その人の心がセーフティーとなって…無意識に急所を外していた…」
梅岡は話を聞いて、ミユキへと尋ねた。
「つまり…身体の奥底では……仇を本気で殺すつもりは無かった…って事か……」
「まぁ…そうだね……」
すると十郎の目に、少しだけ光が見え始めた。
「…死んで……いなかった…」
「……戻れなくなった人は…そんな目をしない………」
十郎に近付いて、ミユキは十郎へ言った。
「…君にはまだ……人間の心が残っているんだ……僕と違ってね…」
「………僕に…人間の心が……残っている…」
そしてミユキは、十郎と梅岡の肩を掴んで言った。
「はい!…それじゃあ辛気臭い話は終わり!」
「……………そうですね……!」
「……だな…」
十郎と梅岡は、元気を取り戻したのか顔には余裕があった。すると梅岡が、ミユキへと尋ねた。
「…ところで……アンタ達は別の用事があるって言ってたが……何してたんだ?」
「あぁ…そういえば言ってなかったね……僕達は……」
……
「……なんか…前よりも禍々しくなってんな…」
「…入ろ!」
俺と十郎、王達は魔族の国アロンに来ていた。魔族になりすましておらず、しかも「アロンへ行く」という旨の手紙を送って。
「………人間の王が来たぞ…」
「…ああ……」
アロンの門へ歩いていって門をくぐった瞬間、俺達には大量の銃口が向いていた。
「……………………随分と豪華な歓迎だな…」
「……魔王軍は一体…いつからマフィア組織になったのかな…?」
兵士達は、人間側が持つマスカット銃とは比にならない程、最新鋭の銃を持っていた。
「…悪神の仕業か……」
「……前魔王が…アサシンにのみ支給していた銃を改良…量産したものだ…」
すると兵士達をかき分けて、王のような風貌のシャルルが歩いてきた。
「……手紙は読んでくれたよね?」
「ああ」
「…それで……答えは?」
「即答でNOだな」
ミユキさんの問いに、シャルルは即答した。そしてミユキへ続けて言った。
「お前ら人間と…友好条約なんて結ぶ筈が無いだろう」
しかし、ミユキさんは負けじとシャルルへ言った。
「……そう言うと思っていたよ………見せたいものがある……お話…させてほしいな」
「…………魔王様…」
「……前魔王が行なっていた実験は…この人間達のおかげで知ることが出来た……皮肉にも…人間によって前魔王の悪事を知る事が出来たのだ…」
シャルルは少し考える素振りを見せた後、俺達へ言った。
「…答えは変わらんだろうが……話くらいは聞いてやる…」
……
「それで?…話とは…」
俺達は大きい机のある部屋で、シャルルと向かい合うように座っていた。
「まず…最初に謝るけど…君達をモンスターと同類だと思ってたんだ…ごめんね」
「フン…あんな獣と一緒にされては困るな…」
そしてシャルルは、机に肘をつくとミユキさんへ尋ねた。
「……それで…話とは?」
「…単刀直入に言おう……人間と魔族が…敵対した真相を……」
「……真相…?」
「うん」
……
十郎と梅岡は、元気を取り戻したのか顔には余裕があった。すると梅岡が、ミユキへと尋ねた。
「…ところで……アンタ達は別の用事があるって言ってたが……何してたんだ?」
「あぁ…そういえば言ってなかったね……僕達は……」
ミユキさんは、俺達が遺跡へ行っている間に何をしていたかを話し始めた。




