神殴り
「世界を滅ぼすんならお前ぶっ倒すわ」
《我を…?……笑止…》
神殿が揺れ始めた、メルトや男達は床に掴まっている。だがユウトは立ったままだ。
《人間のお前が…審判者である我を倒す…だと?》
「エラトマ……お前ビビってんのか?」
《人間風情が》
その瞬間に大量の光の球が発現し、ユウトに向かって飛んできた。
「メルト、ころやつ、隠れてな」
光球はユウトに当たり、爆発した。ユウトの立っていた場所には煙が上がっている。
「…うおお!!」
「勇者様…!」
煙が晴れると上半身裸のユウトが見えた。右手には服を持っている。
「あぶねぇな」
《なんだと…?》
「これだけか?」
《…これで死んでいた方が楽だったな》
彫刻が動き出し、ユウトの目の前に瞬間移動すると10本の腕で殴り始めた。しかし、ユウトは軽く往なしている。
《…馬鹿な……》
「終わりか?」
《この…下衆な人間風情が…》
「利き腕じゃないからやり辛い左ストレート」
ユウトが左腕で石像を殴った。すると数秒後に拳が当たった部分にヒビができた。
《…がッ…!?》
「左腕だからやり辛かったな」
《な…何故…左腕で…》
「いや、服持ってるからだろ」
「…!」
《な……利き腕ではない方で…我と…》
そして一筋のヒビは亀裂となり、段々とエラトマの身体を破壊していった。
《ぐ…ぐぉぉぉぉ!!!》
石像が爆散し、破片が飛び散った。男達はそれを呆然と見つめていた。
「終わった」
「嘘だろ……」
「勇者様!!…やりましたね!!」
メルトがユウトに叫んだ。男達はその場で落胆の表情を浮かべ、両膝をついた。
「何故…服を……」
「お前が大事に持っていてくれた服を傷付けるわけにはいかないだろ」
「ゆうしゃさまぁ…」
メルトが涙ぐむとユウトの頭上にゲートが現れた、そしてそれを見てユウトはメルトに言った。
「メルト、悪いがまたお別れだ」
「え…?」
ゲートはユウトを吸い込もうとしていた、メルトは困惑している。
「なッ……勇者様!?」
「今になって言うけど俺はな…」
ユウトはこれまでの事を全て話した。自分がこの世界の住人ではないこと、神から召喚されたから危機が去れば強制的にこの世界から消える事など。
「……という事だ…少しだけだったが楽しかったぞ」
「そんな…そんなの…」
「という事だ…じゃあな」
「勇者様!!」
するとユウトは初めて笑みを浮かべてメルトに自分のしていたグローブを手渡した。
「……それは餞別だ…今度こそじゃあな」
「勇者様………さようなら……」
そして、ユウトはゲートに飲み込まれ、消えた。
……
「……まさかあの子が黒幕とはね……会社に戻ったら注意しとかないと…」
「………」
ユウトは手を見ながら俯いている。
「だけど君には驚いたよ、まさか神を倒すなんてね!…しかもその破壊力で神の力の一部を別次元の世界へ飛ばすし」
「ホワイト」
「うん?」
「前回ゲームを貰ったが、今回は?」
ユウトがホワイトを見ながらそう言った。ホワイトはハッとなって尋ねた。
「あぁ…何がほしい?」
「俺とメルトを別次元の世界へ案内してくれ」
「え?…別にいいけど…なんで?」
「…好きなように旅をしてみたくなった」
……
「…その神の一部はこの街の近くにあるあの山に落ちた……そしてそれは魔素と呼ばれる物質になった」
要するに神の力が魔素になり、モンスターを誕生させたようだな。
「この村もその魔素のおかげで発展した、村人は[ソフィア街]にしようと言ってたけど村長がどうしても村のままがいいと言ったから表記は村だけどね」
「へぇ…だからか」
そしてホワイトは窓の外から見える山を指差して言った。
「あの場所は魔素発症の地、頂上に到達して魔素を生み出す力【オリジン】と呼ばれる物質を手にしたら誰でも賢者級の魔法を扱えるようになるらしいんだ!」
「まさかお前……それが目的か…」
「はい」
「それにしても、俺たちの話は感動ものだな」
「はい!」
背後から声が聞こえ、俺が振り向くと怖いほど無表情な青年が座っていた。十郎の隣には幼顔で小柄で十郎に似ている青年が座っていた。
「え…もしかして…ユウトさん?」
「ああ、暇だから来た」
「ユウトさんの言ってた別次元の世界は…ここの事だったのですね」
「話も聞いたしそろそろ戻るか」
「そうですね」
ユウトさんとメルトさんは部屋から出て行った。話聞きに来ただけかよ。
「…色々話してみたいが…もう遅いな」
「料金どうします?…まだ払っていませんが」
「僕が全部払うよ」
「太っ腹だな」
そうして長話も終わった。俺たちはベッドに横たわって眠りについた。




