魔王の最期
「魔王様!…幾ら何でも……民を実験台にするのは…」
「……ん?…お前はいつも…何も言わず我の命令に従っていたというのに…どうしたのだ?」
魔王の自室で、実験の協力を求められたアリアは、魔王へ反発していた。
「…人間を何としてでも倒したいのは分かります……ですが…民をま」
「そういえば…君には妹がいたね…」
「…は……はい…」
笑みを浮かべて、アリアをジッと見ながら魔王は言った。
「……剣に長け…聡明な……育ての親は君だと聞いているよ…良い教育をした証拠だ…」
「…いえ…………あ……ぁぁ…」
その時アリアは見た、見てしまった。魔王の机の上にある、妹の私生活の写真の数々を。それを見て、アリアは悟ったのか目に涙を浮かべ、跪いた。
「………それで…実験についての話に戻すが……」
「……………やります…やらせてください…」
「うむ」
「………私に…任せて……ください…」
……
「…家族を脅しの道具に使って従わせる……そんな魔王見たくなかったな…」
「……………アリア…」
「アンタはもう王の器じゃあない」
シャルルは、真っ直ぐな眼差しで魔王へ言った。すると、包帯を巻いたサランが魔王へ突き放すように言った。
「……跡継ぎのシャルルが…魔王を引き継ぐ事になりました…」
「……………そうか…」
魔王はシャルルを横切って、扉を開けた。そして、部屋から出る前にシャルルへ言った。
「…では…我はもうアロンには必要ないな…」
「ああ……アンタには国から出て行ってもらおう………国の為にも…アンタの為にもな…」
「………では一つだけ言っておこう…」
シャルルと四騎士を見ながら、魔王は怒りの混じった声で言った。
「……侵入者を始末出来ず…戦果も挙げられない騎士と……義父を平然と突き放す貴様では…永遠に人間を倒す事は出来ぬぞ」
「…………………」
そう言い残し、魔王は部屋から出て行った。
……
「…魔王…様……」
「………お前か…」
魔王が自室から出ると、執事が立っていた。額には汗があった。
「……こちらへ…」
「何だ…?」
執事の案内に従って、魔王は執事へついていった。執事はシャルルの自室で止まると、ゆっくり扉を開けた。
「…これは……」
そこには栄養価が高い保存食、袋一杯に詰まった10万G、最高級の武具、薬草など、旅に必要な物が完璧に準備してあった。
「……ん?」
そして、魔王は一緒に置かれている封筒に目が留まり、封筒を開いた。
「…これは……」
封筒の中には、魔族の国アロンでカメラが出回った際に撮られた、魔王、民、そしてシャルルの写真が入っていた。
「…………我は…人間を滅ぼそうとするあまり……くッ!」
魔王は、自身の胸に思い切り腕を突っ込んだ。そして、体内からアビスを無理矢理取り出した。すると魔王は、元の姿へと戻っていった。
「………すまない…すまない…ッ…」
「…魔王様……」
跪いていた魔王は涙を拭い、立ち上がると準備をして、執事に言った。
「……今まで…我についてきてくれて…ありがとう…」
「………いえ…」
「……………我は…この大罪を背負って……罪滅ぼしの旅をする………それで…赦されるとは思っていないが…」
そして扉を開けると、最期にシャルルへ聞こえるように言った。
「…アロンは……頼んだ……息子よ…」
「……ああ…」
魔王は息子の目をジッと見た後、城の外へと歩いていった。
「………お前は…」
「…魔王……」
城の出口には悪神と共にいた、メイド姿の女が立っていた。
「……エラトマ様は…アビスで兵器を造れ…との命令をあなたにした筈ですが…」
「アビス……」
魔王は右手に持って蠢いている、アビスをジッと見た。
「………命令に背いた以上…制裁を与えなければなりません…」
「…………ああ…分かってる…」
すると魔王は、アビスを闇系魔法で包み込み始めた。
「…!」
その瞬間女は魔王の右腕を、虚無から生み出した剣で斬った。
「……予知で…お前がそう来るのは知ってた…」
魔王が右手に持っていたアビスは、いつのまにか左手にあった。魔王は、女の反応が一瞬遅れた瞬間に、アビスを闇で包み込んだ。
「…ッ!」
「……アビスが消えてしまったな…」
「この…!」
そして、魔王を袈裟懸けで斬った。魔王は倒れながら、思っていた。
『………ミユキ…あの時……我の予知を無効化したのは…お前だと知っていたぞ……予知が無効化される前に…お前が予知を無効化するという未来を予知していたからな…』
「…ッ!」
『…神の力さえも無効化する…お前なら……エラトマを…ッ!』
魔王は倒れた後、魔素になった。女は魔王の魔素を拾い上げると、粉々に砕いた。
「…これなら……二度と復活出来ないでしょう…」
そして粉々になった魔素を捨てると、闇の中へと消えていった。




