お花畑
そして、俺達が13歳くらいになったある日、オーナーが俺達を呼んだ。
「………今から大事な用事がある…だから留守番をしていてほしい……」
「うん!」
俺達が頷くと、オーナーは少し真剣な眼差しになって言った。
「…もし…留守番中に誰かが来たら…この中に隠れていなさい…」
「……え?」
オーナーは魔法を付与した大きな布を持って言った後、外へ出て行った。
「…どういう事だろう……」
「さぁ…」
するとその時、入り口の鍵を開ける音が聞こえた。まだ、オーナーが出て数分後の事だった。
「オーナーかな!」
「…でも…帰ってくるの早すぎじゃ…」
俺達が扉の隙間から見ていると、顔をマスクで隠して大きな袋を持った魔族が入ってきた。その魔族達は、ゆっくりと俺達のいる部屋へ歩いてきた。
「だ…誰だろう…」
「……隠れよう」
「…え?」
「早く!」
目の色が変わったアランちゃんが、俺達に静かに言った。俺達は言われるがまま、布の中へ隠れた。
「……ひッ…」
俺達のいるオーナーの自室の扉を開けて、その魔族は入ってきた。クローゼットの中などを見た後に、俺達の隠れている布をジッと見た。
「…………」
「……静かに…」
「…ッ!」
布の隙間から、魔族が覗いていた。スグルは今にも泣き出しそうで、マコちゃんはビクビクしていて、魔族を睨むアランちゃんの頬には一筋の汗が伝っていた。
「…………………」
魔族は布から離れて、別の部屋へ行った。そして少し部屋を回ると、自分がここにいた痕跡を消して出て行った。
「………行った…?」
「ぅ…ぅぅ……ひぐッ…」
「……………」
「……なんだったの…あの人…」
スグルは鼻水をすすりながら、ビクビクと震えていた。するとマコちゃんが、アランちゃんへ尋ねた。
「…アランちゃんちゃん…あの人見た時……『隠れろ!』…って言ったけど……何か知ってるの…?」
「…………分からない…けど………」
アランちゃんは、少し怯えた様子で俺達に言った。
「……あの人は…アタシを……牢屋に閉じ込めた人間と……同じ目をしてた……だから…」
「………………」
「…ただいま」
入り口の扉が開いて、オーナーが入ってきた。それを見て俺達は安心したのか、涙が込み上げてきた。
「うぇぇぇんッ!!」
オーナーは大泣きするスグルと、涙をポロポロと流す俺達を見て悟ったのか、静かに俺達の前へしゃがんだ。
「……何か…あったのかい?」
「…じ……実は…」
俺達は涙を拭きながら、魔族が店に入ってきた事をオーナーに伝えた。
「…………怖かったね…」
「…ぅぅ……」
するとオーナーは、笑みを浮かべて俺達に言った。
「……目を閉じなさい」
「…ぇ…?」
俺達は困惑しながら涙を拭いて、オーナーの言う通り目を閉じた。すると、俺の頬へ心地の良い風が当たった。
「……外…?」
「もう開けていいよ」
オーナーの声を聞いて、目を開けた俺達の目の前には、花畑が広がっていた。
「うわぁ…!」
「……スゴい…」
俺達は怖い魔族が来た事も、泣いていた事も忘れて、花畑へ飛び込んでいった。
「………………」
オーナーは、そんな俺達を笑顔で見ていた。すると、誰かが歩いてきてオーナーに話しかけた。
「………アザミ!」
「……ヒルガオさん…!」
歩いてきたのはヒルガオという人間だった。俺達は花の上でその人をジッと見ていた。
「…凄い睨まれてるな……俺…」
「……大丈夫…ヒルガオさんは悪い人間では無いよ」
俺達はオーナーのその言葉を聞いたが、睨むのをやめなかった。すると、ヒルガオさんは俺達の元へ歩いてきて言った。
「………この近くに俺の住む村があるんだが……今年は豊作でね……宴をする事になったんだ……」
そして、俺達の目の前へ膝をつくと真っ直ぐな眼差しで言った。
「…良ければ来ないか?」
「私は行く…君達は…?」
「…………オーナーが行くなら…」
俺達は、オーナーの後ろを歩きながら村へ向かった。
「……俺達…痛い事されないかな…」
「オーナーの友達らしいし…少しは信用できる…」
「だけど…アタシ達は魔族……どうせ良い目では見られない……」
そんな事をコソコソと話しながら、俺達はオーナーとヒルガオさんについていった。
「………ここが村だ…」
辺りが少し暗くなった時、ヒルガオさんが言った。前を向くと俺達の目の前には、炎があった。その周りに村の人間達が座っていた。
「あ!…ヒルガオさん!……それに…アザミさんも!」
「……皆さん…お元気そうでなによりです…」
「…あれ……その子達は…?」
「………ッ!」
村の人間が、俺達を見てオーナーに尋ねた。大勢の人間の視線が俺達に集まり、俺達は少し震えていた。




