黒喰とムサシ
兵士達は反応が遅れ、スライムとは思えないスピードで近付いてきたアダンに取り込まれた。
「くッ…」
「…うん……本来の力の30分の7は回復した…」
「……アダンがいるとは…兵士を連れてきたのは失敗だったか…」
スカーレットは眉を寄せて、アダンを睨んだ。
「………アダンは様々な生物や物体を取り込み…その分強くなる…クソ……まさかアダンがいるなんて予想してなかった…」
「…それに強くなったアリアもいるしね…」
「エミリア様!?…大丈夫ですか!?」
「大丈夫大丈夫!」
擦り傷のエミリアは、腰の剣を抜いた。スカーレットやムサシ、レクスも自身の武器を持った。
「……久々の戦争だなぁ…!」
「………………また…四騎士と戦う事になろうとは…」
「…余とスカーレットは魔族の兵の進行を防ぐ……他の者は四騎士を…!」
「ああ…!」
「俺達ギルドもレクスとスカーレットに加勢する!」
レクスとスカーレット、ギルドの戦士達は後方へ行き、二人の王と八人の聖騎士は四騎士の目の前へ立った。
「……それじゃあ…向こうにいるのはアリアに任せて…我は君達を……喰らうとするか…!」
「……………………お前が喰らうのは…斬撃だけだ…」
[黒喰のアダン]
危険度SSS
スライム系のモンスター。魔法を操るマジックスライムの希少種。一つの種族に一匹しか存在しないと言われている希少種の一匹で、魔法の使い手を喰らい、魔法を核へ取り込む。種族名はエターナルスライム。
「…行っておくが…拙者は不味いでござるよ…!」
「………ふーん…なんか不味いって言われると…喰べてみたくなるなぁ…」
アダンは、アーサーの方をジッと見ると凄まじいスピードで間合いを詰めた。
「君から喰べよう!」
「…フンッ!!」
アーサーは飛びかかってきたアダンを、大剣で思い切り斬った。
「……むッ…」
しかし、アダンは真っ二つになった後にすぐ断面がくっつき、再生した。
「…………………スライム種は…どこかにある核を破壊すれば倒せる筈だ……」
「……そういえば…そうでござった…」
ムサシは、冷静に周囲を見回した。ムサシの周りには、アーサー、アレキリオン、ジェイク、イリスが立っていた。
「…他の方はアリアと戦っている様子…どうやらこの五人で戦うようですね…!」
「そのようだな」
「……まぁ…ちゃっちゃと倒してアリアの方へ加勢しよう!」
するとアーサーとジェイクが、アダンへ斬りかかった。
「…斬っていれば核は見える筈でござる!」
「……黒いから核がどこにあるか分からんな…」
「…ふふ……痒いなぁ!」
その瞬間、アダンは身体から衝撃波を放ち、アーサーとジェイクを吹き飛ばした。
「…………………これは…【撃風】か…」
「………よっと…」
アダンはアーサーとジェイクを吹き飛ばした後に、少年の姿となった。
「この方が動きやすい…!」
「……こちらも…その姿の方が斬りやすいです…よ!」
イリスが少年の姿のアダンの首を、目にも留まらぬ速さで斬った。
「ゴボ…ガバ…!」
「…まぁ……そのくらいでは倒れませんよね…!」
「……当たり前だよ」
そして、再生したアダンの身体の心臓部分へ剣を突き刺した。
「……心臓の位置に…核があるかもしれません!」
「…………ゴフッ…」
するとアダンは、黒い液体を吹き出した。
「…やったか…!?」
「……………いや…まだだ…!…四騎士がここまで簡単に倒せる筈がない…!」
液体を吐き出した後、アダンは不敵な笑みを浮かべた。
「……うん…惜しいね……とても惜しかったよぉ!!」
「…ッ!!」
「君が魔族だったら…その見事な太刀筋でそこそこ出世してただろうに…」
その瞬間、アダンの頭部がスライム状になり、イリスを取り込もうとした。
「…イリス!」
『……剣が抜けない…!』
ムサシと、他の聖騎士達がアダンへ斬りかかったが、しかしアダンはイリスを包み込んだ。
「……イリス!!……くッ…そんな…」
「…私は大丈夫です…」
「うわ!?」
アレキリオンの隣に、息切れをするイリスの姿があった。
「………聖騎士はなかなか…喰べられないね……その代わり…剣は手に入れたけど…!」
すると、イリスの剣をアダンが握っていた。アダンの胸の傷は少しづつ再生していた。
「…剣を捨てて回避したので……奪われました…」
「……………………そうか…」
ムサシはアダンに向かって、ゆっくりと歩いていった。
「どうする?…武器を失ったイリスは…もう戦えないけど…」
「…………………」
その瞬間、アダンの持っていたイリスの剣が弾け飛んだ。
「え…ッ!?」
「……………」
剣はイリスの目の前へ、突き刺さった。聖騎士やアダンがムサシを見ると、左手に槍を持っていた。
「………太刀しか使わないと思っていたよ…!」
「…ムサシ様……槍も使うのか…!」
「だけど……右手に太刀…左手に槍なんて…随分と変わってるね…」
ムサシは不思議そうに見る聖騎士を背に、槍と太刀を構えた。
「……人魔戦争で戦った時は…そんなの使ってなかったよね……いつの間に槍なんて使うようになったの?」
「………………あの時は四人だった…だから使う必要はなかった……それだけだ…」




