開幕の狼煙
「…どうしたの十郎君?…僕の事見て…」
「いや……ミユキさんは男性ですよね…?……しかしエミリアさんの身体は女性なので……」
「あー…」
するとエミリアさんは、自身の胸を触りながら答えた。あの膨らみだとカップはAとBの間ぐらいだな……
「……ホワイト君が最初に僕を見た時…女の子だと勘違いしたらしくてね…だから人形の方の僕は女性として作られた…」
「なるほど…」
「…ホワイト……あの人はよくミスをするな…」
そして、しばらくそんな感じの雑談が続いた。
……
「…四騎士が二人だけになると…こうも寂しいとはな……」
「………………」
「……一人は十郎とやらによって倒され……もう一人は未だに独房の中だ…」
すると魔王の目の前に黒いスライムが落ちてきた。
「…三人だよ……シャルル…」
「……アンタは…」
「黒喰の……アダン…!」
そして落ちてきたスライムは人間の姿になった。
「………まさか…牢を抜けてきたのか…?」
「…うん!……戦争があるって聞いたからさ!」
「お前がいれば…千人力だ…!」
魔王は歓喜を抑え込み、アダンに言った。すると四騎士の一人がシャルルへ尋ねた。
「…アダン……」
「……あの人…千人力って言われてるけど…強いのか?」
「…………ああ…人魔戦争では…ムサシに敗れたが……人間達に莫大なダメージを与えた魔族だ…」
「…へぇ……あの少年が…」
シャルルは、魔王と同等に話すアダンを見て呟いた。
「……魔王と同等に話してるし…」
「…子供の姿をしているからといって油断しない事だ……下手したらお前も…戦争の時に喰われてしまうぞ…?」
「…………………」
……
一週間後の午前9時
「……ミユキさん…確か10時に魔王軍がせめてくるんだよな…?」
「そうだよ!…だから10時までにこの大橋を渡らないといけないね!」
「それでは…渡る前に質問してもよろしいですか?」
俺達は大橋の目の前に立っていた。するとそんな時、十郎が聖騎士達へ尋ねた。
「……今更なのですが…聖騎士の皆さんはエミリアさんがミユキさんの人形だということは知っていたのですか?」
「…なんか知ってるふうだったよな」
「当たり前でござる!……聖騎士たるもの…人の王の事は知っておかなければならないでござるからな!」
そしてアーサーが話した後、ロダンさんが続けて言った。
「……ミユキ様は魔王と聖騎士…そして他の王だけにその事を伝えていたからな…」
「なんだよ…知らなかったのは梅岡と十郎と…俺達だけかよ…」
「………公表にはされていないからな…知らないのが普通だ…」
ギルド戦士の真風がロダンを見ながら呟いた。
「……おっ!…魔王軍が来るまで…あと一時間を切ったよ…!」
「じゃあそろそろ行くか?」
「そうですね」
俺達は大橋を渡る前に、ギルド戦士達と聖騎士達へ言った。
「死ぬなよ!」
「……お前もな!」
「…ミユキが付いてる時点で…失敗は無いだろうな…」
そして、俺達はライド大陸へ向かって歩き始めた。
……
午前10時5分
「…来やがったぜ……」
聖騎士達とギルド戦士達の目の前には、魔族の大群が押し寄せていた。
「……お…おい!……あのスライムは!」
「…黒喰のアダン…!……何故!?」
「抜けてきちゃった!」
魔王軍と人間は、向かい合うようにして立った。手には魔族の魔素で作った武器があった。
「………迎え撃つのは…聖騎士とギルド戦士と兵士……そして…王か…」
「…久しぶり…アリア…!」
アリアはエミリアと、その周りの戦士達を見て不敵に笑うとエミリアに尋ねた。
「………そんな戦力で…大丈夫か?」
「…君は…そんな事言える程の力を持ってたっけ?」
するとアリアは、目にも留まらぬ速さで間合いを詰めた。
「ああ…つい最近……手に入れたのだ」
『…以前よりも速い…!』
エミリアは斬られ、衝撃で吹き飛ばされた。
「……エミリア様!」
「…おい!…避けろ!」
アーサーが吹き飛ばされたエミリアの方を向くと、ロダンがアーサーにタックルをした。
「………聖騎士喰べようとしたのに…」
先程アーサーの立っていた場所へ、スライム状のアダンが蠢いていた。
「…まぁいいや……」
「……ッ!?……マズイ!…総員退避しろ!!」
アダンの叫びも虚しく、兵士達は反応が遅れ、スライムとは思えないスピードで近付いてきたアダンに取り込まれた。
「くッ…」
「…うん……本来の力の30分の7は回復した…」
「……アダンがいるとは…兵士を連れてきたのは失敗だったか…」
スカーレットは眉を寄せて、アダンを睨んだ。
「………アダンは様々な生物や物体を取り込み…その分強くなる…クソ……まさかアダンがいるなんて予想してなかった…」
「…それに強くなったアリアもいるしね…」
「エミリア様!?…大丈夫ですか!?」
「大丈夫大丈夫!」
擦り傷のエミリアは、腰の剣を抜いた。スカーレットやムサシ、レクスも自身の武器を持った。
「……久々の戦争だなぁ…!」
「………………また…四騎士と戦う事になろうとは…」
「…余とスカーレットは魔族の兵の進行を防ぐ……他の者は四騎士を…!」
「ああ…!」
「俺達ギルドもレクスとスカーレットに加勢する!」
レクスとスカーレット、ギルドの戦士達は後方へ行き、二人の王と八人の聖騎士は四騎士の目の前へ立った。




