ぶっ潰し前夜
「……子供を殴るとは…最低な野郎だな」
「なんだと…!?」
青年がライドの足を掴んでいた、そして思い切り握った。
「ぐぁぁぁぁ!!!」
ライドはその場に跪き、足を抑えた。青年の掴んでいた部分は複雑骨折していた。
「……ぐく……ッ…」
「ロボット片付けとけよ…邪魔だから」
青年はライドの首を掴んでロボットの残骸へ投げ飛ばした。凄まじい轟音と共にロボットが道から逸れた。
「…これで通れる」
「す……すごい……」
「大丈夫か?」
青年は少年の体を見た、すると腹には痛々しいアザができていた。
「……痛むか?」
「少しだけ……」
「ちょっと待ってろ」
青年はロボットの方へ歩いていき、残骸から部品を取り出した。それは冷気を発するカプセルのようなものだった。
「…冷却装置……これで冷やせば治るだろ」
そして、冷却装置の中から冷たい鉱石を取り出した。持つだけで手の表面が少し凍った。
「…それは…氷石…冷気を生み出す鉱石…」
「打撲とかは冷やした方がいいからな」
青年は上服を脱いで氷石を包むと、少年の腹部のアザに巻いた。
「…ッ……ありがとうございます…」
「歩けそうか?…まぁ…歩けないか……」
すると少年は真っ直ぐな眼差しで青年の目を見て言った。
「いや…歩けます!」
「…そうか」
少年は立ち上がり、腹部を抑えながら青年と歩いていった。
……
「……宿か…」
青年と少年が少し先の村に着いた時、辺りは暗闇に包まれ、三日月が青年と少年を照らしていた。
「…休むぞ」
「はい!」
少年を休ませる為にも青年は宿へ入っていった。入ると、宿屋の主人が目を丸くして青年の身体を見た。
「うお!?…お兄さん……身体凄いね…」
「俺の身体がどうかしたか?」
「いや……筋肉が凄いなと思って……」
青年は、どのような鍛錬をすれば良いのか分からない程の強靭な肉体をしていた。
「そうか?…というか泊まりたいんだけど…」
「あ…ああ……どうぞ…」
青年は案内された部屋に入るとベッドに横たわった。しかし、目を瞑る事もなく、青年は天井を見ていた。
「…すいません……僕の為に……」
「………目の前で子供を見捨てる趣味なんてないからな…それに外も暗いし」
少年は笑みを浮かべ、自分の思う事を嘘偽り無く言った。それでも青年は無表情のままだ。
「…ありがとうございます……それで…すいません…僕…同行している上に足引っ張ってばかりで……あの!…いつでも切り捨ててもらえれ…ば……」
少年が青年に叫ぶようにそう言うと、青年は寝ていた。それを見て少年は目をぱちくりさせると、はにかみ笑いをした。
「…寝てる…………ふふ…そうですよね…あなたは見捨てるなんて選択はしない人ですもんね……さて!…僕も寝るか!…早寝して傷を治さないといけないし!」
少年もベッドに横たわった、窓の外から青年と少年を月明かりが照らす中、眠りについた。
……
「料金は1000Gです」
「金は無い、これでなんとかなるか?」
青年はそう言って黄金に煌めく鉱石を差し出した、すると宿の主人は目を白黒させて鉱石を見た。
「…これは!……雷晶石じゃないですか!?」
「それでいいか?」
「も…もちろんです!……これ一つで十年は遊んで暮らせるぞ……」
青年は宿から出て伸びをした。そんな時に少年が青年に尋ねた。
「あの!…雷晶石ってとても貴重な鉱石ですよね!?…どこで取ったんですか!?」
「ロボットから取った」
「…ロボット…いつのまに……」
雷晶石は電気を生み出すため一部の先進国では重宝されており、その大規模な発掘によって数が少なくなっている希少な鉱石。
「…へぇ……ロボット壊しまくって乱獲するか」
「ロボットは帝国でしか作られてないし…何より数もかなり少ないので乱獲とまでは…」
青年と少年はそんな会話をしながら歩いた。そして少しして目の前には大きな国があった。
「アレが帝国か」
「はい…この世界で一番の軍事力を持つ国です…」
「ふーん…」
青年は頭をかきながら帝国を見下ろしていた。すると少年が心配そうに尋ねた。
「あの…一人で…行くのですか…?」
「当たり前だろ」
「「「いいや!!…一人じゃねぇぜ!!」」」
後ろからそう叫ぶ声が聞こえて、振り返ると沢山の戦士が立っていた。少年は驚き、困惑の表情を浮かべ、青年は無表情のままだ。
「…アンタらの活躍聞いていたら居ても立っても居られなくなったんだ!!」
「俺たちも協力するぜ!!」
「…勇者様!!」
「……ああ…行くか」
青年と少年を先頭に、戦士達は追いかけるように帝国へ向かって走っていった。




