午後6時50分の死神達
その時ターゲットは、近付いてくるミユキに掠れた声で言った。
「お…俺の貯金に1000万円ある…それで…」
「見逃せ…と?」
「あ…ああ…」
すると、ミユキはターゲットの首を掴んで言った。
「…君の犯した罪を見たけど……人を殺したのって金の為だよね…?」
「………ッ…」
「その1000万円も…その人達から奪った金でしょ?」
ミユキはゆっくりと包丁を振りかぶった。
「………君は一度…死んだ方が良いね!!」
「まッ……待てッ!!」
そして、ミユキは思い切り包丁を振り下ろした。
「…ッく…うッ……」
「………先生…!?」
「……そこまでだ…」
川畑はミユキの手首を掴んでいた、包丁はターゲットの首スレスレだった。
「…殺すな」
「何故?……別に殺しても良いでしょ…こんな殺人鬼一匹くらい…!」
「八咫烏は……ターゲットが殺す必要のある人物かを冷静に見定めなければならない…」
そして、包丁をミユキの手から奪って言った。
「………この殺人鬼は殺す必要がない…」
「何で!?…コイツは今まで私欲の為に何人もの人を殺してる屑なんだよ!?……なのに何で殺しちゃ駄目なの!?」
ミユキは少し感情的になり尋ねた、すると川畑は冷静に答えた。
「……依頼内容に……“殺してくれ”とまでは書かれていないだろう……」
「……ッ…そう…だけど…」
「だから殺す必要が無いッて事らしいぜ!!」
その言葉を聞いて、ミユキは俯いた。そして川畑がターゲットを見ると、ズボンを濡らしながら白目を剥いていた。
「一度帰るぞ……宇川…この殺人鬼を頼んだぞ」
「…ああ…!」
川畑とミユキは八咫烏の事務所へと帰っていった。帰る間はお互いに一言も喋らなかった。
そして八咫烏の事務所に着くと川畑はミユキを座らせ、自分は向かい合うように座った。
「…………お前には八咫烏の事で…まだ話していない事があった…」
「……なに…?」
「…先程も言ったが……八咫烏は殺さなければならない人物かどうかを見定めなければならない」
ジッと見つめるミユキへ、川畑は話した。
「……だから殺しの依頼をされようと…ターゲットが殺す必要の無い依頼であれば…俺たちは引き受けない…」
するとミユキが、そう話した川畑へ尋ねた。
「…殺す必要が無いから…さっきの殺人鬼も殺さないの…?」
「ああ」
「……何で…あんな屑!…殺す必要大ありでしょ!?……殺して…苦しみを与えないと…!」
川畑は深呼吸をした後に再び話し始めた。
「………人を殺して平気な奴は異常者だけだ…大抵は罪悪感に苛まれる……」
「……………」
「罪悪感に苛まれる奴等は…殺さずとも苦しむ……人間を殺したという事実が永遠に残り…人間を殺した時の感触が忘れられず…人間を殺した時の光景が目に焼きつくからな…」
そして、最後に締めくくるように言った。
「………殺しても殺さなくとも変わらないのなら……殺さない方がいいだろう……後処理をしなくていいからな…」
「……だから殺さない…か…」
「…楽に死なせるより……罪悪感に苦しめられながらジワジワと死なせた方がマシだろう……それに……生きてさえいれば…罪と向き合って…心を入れ替える可能性が少なからずあるからな…」
するとミユキは、話終わった川畑に尋ねた。
「…じゃあ……殺す必要のある人物ってのは…?」
「……何をしても…どれだけ手を尽くそうと罪悪感に苛まれない本物の異常者…生きてさえいれば誰かを必ず傷つける…存在してはならない奴等だ…」
川畑はハッキリとした口調で言った。
「……そんな人達は…殺す必要があるの…?」
「…生かしておけば…必ず誰かを傷つけるからな……」
……
「…だから僕は……この異世界での戦いでも…殺す必要のある者だけを殺すようにした……だけど…殺す必要のある人物なんて全然いなかった…まぁ…その方がいいんだけどね…」
「……そうだったのですね…」
ミユキは話し終えると、包丁をジッと見ていた。
「…だから…ぶっちゃけ【反殺】なんていらないんだよね!……そんなの無くても僕は殺しなんてしないし……」
「ミユキさんクラスになると…どこまでダメージを与えれば死亡するか分かりますもんね!」
「……そうなんだよ!…だから僕が人を殺すなんてあり得ないんだ!」
十郎と話しながら、ミユキは自信を持って言った。
「…なのにみんなにはエミリアと同じように『ミユキも平気で殺しをする』って思われてるし……まぁ…しょうがないんだけどね…」
そして苦笑いしながら溜息を吐くと、身に付けていたヴァンパイアのような黒いマントを脱いだ。
「……話を聞いてくれてありがとう…!……それじゃあ……僕に勝った証に…さっき渡し忘れていたコレを君にあげるよ!」
「…これは……」
「……[魔血の黒衣]…これを付ければ君も血を浴びたり口にすると強くなれて…傷も癒せる吸血鬼になれるのさ!!」
十郎は魔血の黒衣を受け取り、身に付けた。衣は奇妙に揺れていた。
「………なんだか…不思議と心地良いです………ですが…コレを僕に譲って良かったのですか…?」
「…何で?」
「………ミユキさんは血を取り込む事により…傷を癒したりすると聞きました……それはこの衣の効力なのでは?」
するとミユキは笑顔で答えた。
「…僕はその衣が無くても血を取り込んで傷を癒す事が出来るから大丈夫だよ!」
「……え?」
「僕が血を取り込んで傷を癒したり…強化されたりするのはその衣の効力じゃなくて…生まれつきだからさ!」
「……そうなのですね…」
そして、ミユキは迷宮の出口の方向へ向いて言った。
「…さて……ギルドへ戻ろうか!」
「はい!」




