午後6時30分のミユキと十郎
「十郎君!」
『…ッ!?』
少し近くからミユキの声が聞こえた、十郎は戸惑いながらも息を殺し続けた。
「隠れてる場所は分かってるよ…!……君の落とした血のおかげでね!」
『…頬の切り傷……この血で…』
ミユキの声はだんだんと近くなっていた。
「……口にしたのは数滴だけど…君の血はとても美味しいなぁ!……今までの中で一番最高級の味だったよ…!」
『…ッ……』
十郎は辺りを見回した、その間にもミユキは近くで十郎に向かって喋りかけていた。
「…安心しなよ…君を殺した後……血は全部吸い尽くしてあげるから…!」
『……まるで吸血鬼ですね…』
「…………そこだね…」
ミユキは十郎の隠れている場所をジッと見た。
「ふふ…恐ろしく小さな息遣い……僕でなきゃ見逃してるね…!」
その瞬間、ミユキは十郎の隠れている場所へ来た。
「……あれ…ッ!?」
しかし、そこに十郎の姿は無かった。ミユキは少し焦りながら十郎のいた場所を凝視していた。
『…十郎君は確かに…ここに隠れながら僕を見ていたのを…僕は見ていた……ここに居るはずなのに……」
「僕を欺くなんて凄いじゃあないか十郎君!!」
ミユキは投げナイフを握り、背後に迫っていた十郎を壁に叩きつけた。
「……すぐさま近くの別の場所に隠れて…僕の背後を取ると思っていたよ!!…君の考えなんて全て裏の裏までお見通しさ!!」
「…裏の裏の裏があるかもですよ…!」
「ぐッ…!?」
その瞬間、ミユキの背後から十郎が現れて裸絞をした。
「………や…やるね…」
「…ッ……!!」
『……血の流れが止められた…永遠に無呼吸が出来る僕でも…血を止められたら数秒は動けない…』
ミユキは抵抗するが、完全に背後を取っている十郎に攻撃は当たらなかった。
『…これ以上は…ホントにヤバい……このままだと大きなスキが出来る……ッ…!」
魔法で攻撃するが、十郎は力を緩めない。そして数分後に、ミユキの腕から力が抜けた。
「……………」
『…意識はあるものの…身体が動かない………終わり…か……』
しかし、殺し合いだというのに十郎はミユキにトドメを刺さなかった。
ミユキは数秒後に動けるようになり、その場でヘタリ込む十郎の前に座った。
「……お互いに了承した殺し合い…なのに何故…僕を殺さなかった…?」
「この戦いは…殺し合いではないからです」
「…は……?」
十郎は息を切らし、ミユキの目を真っ直ぐ見ながら言った。
「………殺し合いではない為…相手を殺す必要はありません」
「……これが殺し合いではない…?」
「はい…僕は貴方を殺すつもりはない…そして貴方も……僕を殺す気ではない…お互いに相手を殺すつもりのないこの勝負は…殺し合いでは無いということです」
ミユキは十郎をジッと見つめながら言った。
「…僕が…君を殺すつもりがないだって?」
「貴方は最初から…この勝負で僕を殺すつもりはなかった……」
十郎は座り込むミユキに説明し始めた。
「……さっきの話でも言ってましたが…貴方は例外があるものの…いつもは不殺を前提として戦っているから…それはこのノートへ書かれています…」
「…………………」
「…何故かは分かりませんが」
するとミユキは笑いながら十郎に尋ねた。
「僕が君を殺す気など無い事…知ってたんだ…!」
「はい」
「……だからトドメを刺さなかった…か……」
十郎は、包丁を腰の鞘にしまったミユキへと言った。
「…それに……貴方は勝負の時に僕の無数のスキをわざと見逃した……それを見て貴方に殺意が無い事が確信に変わったのです……」
「………」
「もし貴方が本気で戦っていたら…開始数秒後に僕はバラバラだ……」
そして、十郎は少し落ち込むように呟いた。
「…極限まで手を抜いてもらった勝負での勝利……それは勝利と言えるのだろうか…」
「………………」
ミユキは溜息をついた後に十郎を見て言った。
「だけど…僕を一時的に戦闘不能にしたのは事実だ……」
「……………」
「……勝ちは勝ちだ…!」
そしてミユキは、十郎の肩をポンと叩いて隣へ座った。
「…僕を倒したご褒美に……僕の殺しに対する考え方……感性を話してあげるよ…」
「……………」
「それを聞けば分かるよ……僕が人殺しをしないワケ……」
するとそんな時、目の前に頭が牛で身体が筋肉質な人間のモンスターが現れた。
「……君との勝負の時…壁の文字を解読したんだ……そしたらこの神殿と迷路は…このモンスターを封じる為に作られた事が分かった…!」
[ミノタウロングス]
危険度SS
獣系のモンスター。ミノタウルスの希少種でまだ数匹しか確認されていない。とても獰猛で、身体は金属よりも遥かに硬く、普通の剣などでは攻撃すると折れ……
十郎がミノタウロングスを読み取り、説明を読み終わる前にミユキが一振りで斬った。
「………よし…静かになったし話そうか………あぁ!…そのモンスターの魔素はあげるよ!」
そして、ミユキは十郎へ語り始めた。




