午後6時20分の殺し合い
ミユキはハッとして、包丁を持った右腕を無造作に垂らすと十郎へ言った。
「ごめん!…変な事を喋りすぎた!………よし…それじゃあ始めようか…!」
「その前に……その話をもっと詳しく教えていただけないでしょうか」
十郎が尋ねると、ミユキはクスッと笑って言った。
「……うーん…そうだな………まぁ…気が向いたらね…!」
「…そうですか……」
するとミユキの顔からフッと、感情が消えた。
「……これから殺し合いをするというのに…随分と余裕そうだね…」
「………………」
「…駄目だよ」
その瞬間、ミユキの包丁の刃は十郎の首元に触れていた。
「…ッ……」
「僕が本気で殺しには来ない…とでも?」
「……………」
「真剣勝負な以上…僕は本気で君に襲いかかる……君も殺すつもりで戦わないと死ぬよ?」
十郎はハッとして、後退りすると大鎌を構えた。
「…………そうですね」
「先に言っておくけど……この勝負を望んだのは君だ…だから化けて出てこないでね…!」
「……はい…!」
中距離を保ち、十郎は大鎌を思い切り振った。しかし十郎は大鎌を振る刹那、大鎌を刀に変形させた。
「…ッ」
「……なるほど…」
高速で襲いかかる斬撃をさばくと、ミユキは包丁で斬撃の隙間から十郎の喉元を突いた。
「あれ…」
包丁の先端には、何も無かった。ミユキがすぐさま後ろを向くと、地下へ走って行く
『地下には柱が何本もあった……その死角からスキを探る事が出来る…』
「…ふッ……」
地下へ降りた十郎の目の前には、ミユキが立っていた。
「……殺し合いの最中に…何処へ散歩しに行くつもり?」
「…散歩ではありませんよ」
「この地下にある柱の死角から攻撃するつもりなんでしょ?…ここは柱が多いから隠れ放題だもんね!……もしかして当てちゃった?」
その瞬間、ミユキは十郎を魔法で吹き飛ばした。十郎は壁にぶつかった、それを見てミユキは高速で間合いを詰めて包丁を振りかぶった。
「…くッ……」
十郎がすぐに避け、ミユキの包丁は壁に突き刺さった。すると壁には巨大な亀裂が入り、崩壊した。
「……ッ…」
ミユキの包丁により崩壊した壁を見て、十郎は息を呑んだ。
「…まさか…この神殿にこんな場所があるなんて…」
壁の奥には迷路のような場所になっていた、十郎はその迷路の奥へ走っていった。
「…迷路かぁ……ふふ…」
ミユキは十郎の走って行った方向へ歩いていった。十郎は少し離れた場所で壁にもたれると息を殺しながら耳を澄ました。
『……走った時の反響によって分かりましたが…この迷路……形は縦横100mの正方形のようですね…』
耳を澄ますと、少し遠くの方で足音が聞こえた。十郎は警戒しながらその場所へ近付いていく。
『…いますね』
そこには辺りを見ながら、ゆっくりと歩いているミユキの姿があった。十郎は背後へ回り、刀を振りかぶった。
「……ッ!!」
十郎は刀をミユキの首スレスレで寸止めして言った。
「…僕の勝ちです」
「……勝ち名乗りは早くな〜い?」
「なッ!?」
突然現れたミユキが十郎の刀を蹴り上げた。刀は宙を舞い、少し遠くへ落下した。
「………それは【陽炎】だ…!」
そしてミユキは包丁で十郎に斬りかかった、十郎は包丁の斬撃を避けたが、頬に切り傷を負った。
「………ッ…」
刀を諦め十郎は迷路の奥へ走っていった、ミユキは落ちている刀を拾い上げた。
『…磁力石対応武器か……』
そしてミユキは、地面に付着している赤い液体が目に留まった。
『……血か…』
刀をその場に置いて血の近くへ歩いていった。
『血液の味からその人物のその時の感情…そして匂いから正確には無理だけど…何処にいるかが大体は分かる…』
ミユキはその場に屈むと十郎の血を指で触り、指に付いた血を舐めた。
『…焦り…驚き……多分…自分の作戦が通用しなかったから焦ってるんだろうね……』
そして匂いを嗅いで、目の前を見た。ミユキは十郎の大体の位置を特定していた。
『……刀を拾わなければならなくなりましたね…』
ミユキから離れた場所で再び息を殺し、十郎は隠れていた。
「十郎君!」
『…ッ!?』
少し近くからミユキの声が聞こえた、十郎は戸惑いながらも息を殺し続けた。
「隠れてる場所は分かってるよ…!……君の落とした血のおかげでね!」
『…頬の切り傷……この血で…』
ミユキの声はだんだんと近くなっていた。
「……口にしたのは数滴だけど…君の血はとても美味しいなぁ!……今までの中で一番最高級の味だったよ…!」
『…ッ……』
十郎は辺りを見回した、その間にもミユキは近くで十郎に向かって喋りかけていた。
「…安心しなよ…君を殺した後……血は全部吸い尽くしてあげるから…!」
『……まるで吸血鬼ですね…』
「…………そこだね…」
ミユキは十郎の隠れている場所をジッと見た。
「ふふ…恐ろしく小さな息遣い……僕でなきゃ見逃してるね…!」
その瞬間、ミユキは十郎の隠れている場所へ来た。




