午後6時10分のお喋り
「…まぁ…【反殺】が使えなくなった以上…君を無力化する事は出来ないけど…しょうがない……君を斬る……よ…!」
「……フン…そうか…」
悪神は地面に黒い渦を生み出してミユキの方を向いた。
「……無事では済みそうにないな…ここは退散しとこう」
「何処行くんだよぉ!」
そう言い残し悪神は渦の中へ消えていった、渦もすぐに消えていった。
「………逃げられた…」
「ミユキさん!」
すると、上の階から十郎が降りてきた。
「…終わりました」
「あ…終わった?……じゃあ早速…勝負しようか…!」
「はい」
ミユキは十郎と共に、地上へ戻っていった。
「……地下に倒れていた白フードの方々は何ですか?」
「…僕のファンだよ……僕のあまりの魅力に倒れてしまったけどネ!」
「魅力があるなんて…自分で言うのですね」
そして、ミユキは座りながら少し考える素振りを見せた。
「まぁ…一応言っとこうか」
するとミユキは、隣に座る十郎へ言った。
「あのフード君達が僕のファンってのは嘘ね!」
「……そんなの分かってますよ」
「…詳しい事言うと……」
ミユキは白フードの男達との関係、その正体、そして悪神と会った事を全て話した。
「………悪神がそんな事を…」
「……僕は【反殺】を僕と十郎君に付与して…死ぬ事の無い…真剣勝負をしたかった…その方がお互いにやりやすいからね……だけど僕は【反殺】が使えなくなった…」
そしてミユキは、立ち上がって十郎の目の前に背を向けて立つと、振り返って真剣な眼差しで言った。
「だから…この勝負でどちらかが死ぬ事になるかもしれない……」
「………………」
「それでも…僕との真剣勝負をするかい…?」
その後ミユキは、十郎を安心させるように続けて言った。
「あ!…別に勝負を引き受けなくてもいいよ!」
「……………」
「…真剣勝負ってのは…即ち実戦……武器も木刀みたいな非致死性武器じゃないし…人を消し去るレベルの魔法も使う……」
少し考えている素振りを見せる十郎へ、ミユキは最後に言った。
「………これは煽ってるわけじゃなくてね…僕は死ぬかもしらないから警告してるだけだよ……僕も無意味な殺しなんてしたくないし…まぁ…だけど……決めるのは君だ…」
「……………やります」
「…勝負を?」
「やります」
十郎は立ち上がり、決心した様子で言った。ミユキは少し眉をひそめて、再度尋ねた。
「……死ぬかもしれないんだよ?…その時の勢いで決めたのなら辞めた方が良い」
「…いえ……勢いではありません……考えて…考えて……考えて決断したつもりです」
するとミユキは十郎に何も言わず、少し俯いた。そしてすぐに顔を上げると、十郎へ言った。
「決断した……なら行こうか!」
「…はい!」
……
十郎とミユキは、神殿の中で向かい合った。神殿は物音一つせず、静寂に包まれていた。
「それにしても…想像とは少し違いましたね…」
「…ん?」
するとその静寂を壊すかの如く、十郎はミユキへ言った。
「……ミユキさんは…殺しが大好きな戦闘狂かと思いましたが……無意味な殺しはしないのですね」
「そりゃあそうよ!…他の生き物を殺す事はとても悪い事だからね!……だから僕は戦いの際には九割殺しを採用しています!」
「九割殺し?」
「うん!…九割殺しってのは…簡単に説明すると再起不能にするって事だよ!」
そしてミユキは続けて十郎へ言った。
「……僕は人の鳴き叫ぶ声…恐怖に震える顔…痛がっている姿…そんなものを見るのが好きだ……だけど…身体を切り裂いた時に溢れる血が…それよりも大好きだ……鮮血を口にすると興奮する…!」
「………………」
ミユキは包丁を見て興奮しながら話した、すると顔に張り付いていた笑顔が取れ、無表情に戻った。
「…だけど僕は……殺し屋とか…暗殺者とかに比べたら殺人の数なんて…とても少ないもんさ……エミリアと違ってね…」
「……え?」
「人を痛めつける事が好きな点においては…僕のクローン的存在のエミリアと同じだけど……僕は人を殺す…まではしないからね……エミリアは人を痛めつけるだけ痛めつけて殺すけど…」
十郎は、ミユキの話を静かに聞いていた。
「僕と同じ思考…限りなく近い殺しの技術をコピーした神に造られし人形……だけど僕の感性をコピーする事は出来なかったようだね!」
するとミユキはハッとして、包丁を持った右腕を無造作に垂らすと十郎へ言った。
「ごめん!…変な事を喋りすぎた!………よし…それじゃあ始めようか…!」
「その前に……その話をもっと詳しく教えていただけないでしょうか」
十郎が尋ねると、ミユキはクスッと笑って言った。
「……うーん…そうだな………まぁ…気が向いたらね…!」
「…そうですか……」
するとミユキの顔からフッと、感情が消えた。




