午後6時10分のモンスター
弱い力で掴んでいるトップランカー達を振り払うと、その場で倒れている全員にミノルは言った。
「……そんなクセェ事はしなくていいんだよ」
「…ッ……」
「10秒以内に立て……立って俺と戦え…！」
「な…んだと…？」
ミノルは溜息をつくと、トップランカー達へ続けて言った。
「……立てないのなら…この女を殺す」
「や…やめろ！！」
倒れているアリスの肩に手を乗せてミノルは言った。すると、小鳥遊は身体中から血を吹き出しながらフラフラと立ち上がった。
「た…小鳥遊…」
すると他のトップランカー達も、立ち始めた。
「……さ…さっきは…どうも…」
「………う…梅岡君…！？」
ボロボロのトップランカーの間から、フラフラと梅岡が歩いてきた。
「…梅岡……」
「ミノルさん……アンタがギルドを…この世界を壊そうとする理由は知らないが……それを指くわえて見てるわけにはいかねぇんだ」
「ミ…ミノルだと！？……このモンスターが！？」
「……警告はさっきした…」
その瞬間に梅岡は、目にも留まらぬ速さで地面に叩きつけられた。
「ぐあッ…！」
「…素直にこの世界から出ていれば……死なずに済んだものを…」
「梅岡君！」
トップランカー達の脳内は梅岡の心配と、ミノルが何故モンスターになり、世界を破壊しようとしているのかという疑問が交差していた。
「……ミノル！！」
「…桜郎君！？」
「おいお前！…ソイツから離れろ！」
背後から声がして、トップランカー達とミノルが振り返るとそこには桜郎が立っていた。
「………サ…くロ…」
「…お主……何故…ッ…」
「……俺ハ…ぐッ……」
ミノルは桜郎の声を聞いて動揺し、梅岡から手を離すと元のミノルに戻った。だが、すぐにさっきまでの悪魔に戻った。
「見ての通り…トップランカー達をぶっ殺してるところだ」
「…何故そんな事を！？」
桜郎が怒り、戸惑い、悲しみ、苛立ち、失意などと様々な感情の入り乱れた声でミノルに尋ねた。するとミノルは答えた。
「……気付いただけだ…神と人は…世界にいらないとな…」
「なんだと…？」
「神と人が…誕生したせいで……争いというものも誕生した……神と人がいるせいで…世界はボロボロだ！」
ミノルの語りに、誰一人と口を出さなかった。
「…世界を観察する観察者…神だ……自分達の問題に人を巻き込む…カスだ……ソイツら神が存在するから…争いが絶えない…」
「………………」
その場にいる者は、祖父や祖母のおとぎ話を聞いている時のように、ミノルの語りを静かに聞いていた。
「そして人……神が産み出した生物だ……発展…進化…成長の為に…他のものを犠牲にするカス野郎だ……そんなカス野郎であるお前ら…そして俺が存在するから……争いが生まれる…」
ミノルは最後にそう言った。色々と思う事があるのか、その場の者達は静まり返っていた。
「……神と人…その二つ…その二つさえ消えれば……世界から争いは無くなる…！……俺はそんな害悪を粛清するヒーロー…正義の味方だ…」
「……さっきから聞いていれば…」
梅岡が、ミノルへ向かって歩いていった。そして、目の前へ立つと叫んだ。
「…あ？」
「決めつけてんじゃねぇぞ！…そんな極論をごちゃごちゃと抜かしやがって！！」
「……なに？」
「全ての神と人がクソだと決めつけてんじゃねぇぞ！！…中には良い神も…良い人もいるんだ……神と人がクソだって言うんならなぁ…全ての神と全ての人を調べてから言えや馬鹿野郎！！」
ミノルは血を流しながら叫ぶ梅岡の話を遮るようにブン殴った。
「この愚か者がッ！！……神と人が全員クソだなんて…調べるまでも無い！！……神と人はクソだ！」
「だから決めつけんなァ！！」
血を吹き出しながら、梅岡はミノルをぶん殴った。しかし、ダメージは少ない。
「小賢しいッ！！」
「…ぐわッ！…がッ！！」
梅岡にミノルのストレートパンチがクリーンヒットして、梅岡は吹き飛んだ。
「……お前が何を言おうと俺は世界を壊す！」
「さッ…さっきと言ってる事が…違うぜ…ミノルさん…」
「あ？…俺は世界…アレ……俺は神と人をぶっ殺し……ァ…」
ミノルは困惑しながら、苦しそうにその場でうずくまった。
「なんだ…俺は何をしようとしてんだ！？……神と人を滅ぼす…世界を壊す……あ…あぁああぁあッ！！」
「ミ…ミノル」
「ウガァァアァァア！！」
そして、起き上がると腕を振り回して辺りを破壊した。
「ミノル！…や……やめろッ！！」
「ウォォォアアアッ！！」
「桜郎君！…アレはもうミノルじゃあない……ただの悪魔…モンスターだ！」
小鳥遊は桜郎をギルドの方へ突き飛ばして言った。
「ミノルの意識が…薄くなってる……もう声も届かないよ…！」
「くッ…ミノル……」
ミノルは凶暴なモンスターの如く、暴れ回っている。
