午後5時20分の梅岡
俺は狐の差し出した刀を受け取った……これが…神斬りか……神斬りはまぁまぁ軽く…鞘には謎の札が貼られており…黒と白の刃だった…
「……有り難く頂戴する…」
「…うむ」
刀を腰に装備して、俺は帰ろうとした。その時に狐が俺に言った。
「梅岡」
「……なんだ?」
「……………今は…逢魔が時だ……」
「…逢魔が時……ああ…」
魔物に遭遇しやすい時間帯だったか。逢魔が時は5時から7時くらい、確かに今は5時だから逢魔が時だな。
「……お守りという程のものではないが…ついでにこれをやろう…」
狐は俺にお札をくれた。その札は魔札、蘇ノ魔札だった。
「………サンキューな…!」
「……気を付けるのだぞ…」
俺は狐に礼を言って、薄暗い街を後にした。
……
「…梅岡は無事かな……」
「……大丈夫だ…あの者なら…」
ギルドの自室で、ミノルと桜郎はくつろいでいた。ミノルはその時、外から気配を感じて立ち上がった。
「…少し外の空気を吸ってくる……部屋でテレビでも見とけ……」
「う…うむ…」
ミノルは剣を持って部屋を出ると、鍵をかけて外へ向かった。
「……空気を吸うだけだというのに…何故…部屋の鍵をかけて…剣を持っていくというだ……」
桜郎はミノルが何故外へ出たかを察して、窓のカーテンを閉めた。
「…この気配は……」
ミノルは外へ出て、気配のする方へ向かった。歩いていくとそこには大岩があり、ギルドの戦士が少人数だが集まっていた。
「……ミノル…!」
「…お前らも気配を感じたのか?」
「ああ……だから一応様子を見に来たのだが…」
ギルド戦士達が集まっている場所には、大岩があるだけで、何もいなかった。
「……気のせいのようだな…」
「帰るべ」
何も無い事を確認して、ギルド戦士達はギルドへ帰っていった。だが、ミノルはただ一人大岩の前へ立っていた。
「また…何か悪い事を企んでいるようだな………悪神ッ!!」
その時、大岩の上にミノルが忘れたくとも忘れられない人物が立っていた。
「おひさー」
「……悪神エラトマ…」
「何か言いたげだね」
ミノルは剣を抜いて構えた。悪神はそれを見て、不敵な笑みを浮かべている。
「………まだ性懲りも無く…桜郎を捕まえて神の力を取り戻そうとしてんのか?」
「フフ……『力を取り戻す為に桜郎を捕まえて殺す』…なんて勿体ない事しないよ…もっと良い使い道を思い付いたからね!」
「良い使い道…だと…?」
悪神はハッとして、咳払いをした。
「……おっと!…これ以上は話せないよ!」
「……………」
「あ!…言い忘れた!」
剣を構えるミノルに、悪神は満遍の笑みを浮かべて言った。
「…………僕の扱う神術…前は特定の役職の人物の立ち入りを禁止する神術…今のギルドのトップランカーに分け与えた数々の神術…生物に莫大な力を与えて操る神術…それだけだったのだけど…」
悪神は岩から飛び降りて、ミノルの目をジッと見て言った。
「身体は人間だ…だから普通に斬られたら普通に死ぬ……しかぁし!」
「…しかし…?」
「……災神さんのおかげで…新しいスキルを得たのだッ!」
そう言って悪神は大岩に触れた、その瞬間、大岩は奇妙にねじれた。
「…ッ……」
「……驚いた?」
『………コイツはやばそうだな…俺一人では……』
ミノルは悪神が神の肉体を手にした事を知った。すると、頬に一筋の汗が通った。
『…王達に伝えないと……』
「あれ?」
剣を構えながらミノルは後退りして、距離を取った。
「……王達に伝えなければ…」
「…あ〜あ……つまんないなァ…ミノル君!」
悪神は小馬鹿にしたようにミノルへ言った。
「僕を倒した時の君は…とても面白い人間だった…自身よりも強大な神へ戦いを挑むような男だったからね……」
だが、ミノルは聞く耳を持たず、剣を構えながら下がった。
「だけど…今はどうだ?…自身より強いと分かった神から逃げている……全く…情けなくなったものだよ……君の新友のリコみたいに情けないね!」
「………なに…?」
その名前を聞いた瞬間にミノルは立ち止まった。
「…僕が何故…君とリコにスキルを与えなかったか……それはスキルを持つ仲間とどういう風に接するか…戦闘でどのように戦うのかを見たかったからさ!…まぁ…ちょっとした好奇心さ!」
「……そんな理由で…」
そして悪神はニッコリと笑って言った。
「いやぁ〜!…君は見てて面白かったけど…リコは駄目だね!……全然強くならないし…何より戦わないし……挙げ句の果てには人体実験で壊れちゃった!」
「…………」
「情けないゴミ屑だなぁ…アイツは……だけど面白かった君も…まさかリコみたいな面白くもないゴミになっちゃうなんて…」
その瞬間、ミノルの目は怒りに染まった。
「………す…」
「す?」
「……ぶっ殺すッ!!」
ミノルは悪神との間合いを詰めて、思い切り悪神の胸へ剣を突き刺した。
「…その薄汚ねぇ口を…切り刻んでやる!」
「馬鹿だね…」
悪神は平気そうにしており、ミノルは驚いていた。
「……くッ…これが神の…肉体……ぬ…抜けない…」
そして、ミノルは悪神に突き飛ばされ倒れると、踏まれて立てなくなった。
「…アビスでも植え付けようか……一度は僕を倒した人間だし……雑用にでも使ってあげるよ!」
悪神は胸の剣を抜いて、ミノルの胸へアビスを入れようとした。その刹那、ミノルは首をブンブンと振った。悪神はそれを見て目を丸くした。
「あ…あ……鳴呼ああ唖々あゝあああ!!」
「……壊れちゃった?」
そしてミノルの腕が黒くなると、その腕で悪神の足を掴み、握りつぶした。
「…いッ…!?」
「……神も…人間もいらねぇ…」
立ち上がったミノルの姿は死神、悪魔のそれだった。
「………これは…人の業の暴走…修羅化か……どうやら脳内が破壊衝動に支配されたようだね…それに無意識に【オーバー】を発動してる…」
「……神も人も…全部破壊して…この世界を……救う…」
「…あー……こりゃダメだ…」
悪神は溜息をついて、ミノルの前から消えた。
「……悪神…お前も後で破壊してやる……それよりも先に…ギルドだ…」
ミノルは、ギルドの方角へ向くと、ゆっくりと歩いていった。




