午後5時5分の梅岡
「黒霧!?」
「だが……お前が現れてくれたおかげで…目的が果たせそうだ…」
「…なんだと…?」
すると、黒霧は手を広げた。その瞬間、街全体や墓廟から黒い粒子が飛び出してきて、黒霧を包み込んだ。
「なんだ…!?」
「……この街と…あの墓に住む妖の気を吸い取っている…」
俺の横から聞き覚えのある声が聞こえ、横を見るとそこには狐の面を被った青年、天雲ノ狐が立っていた。
「アンタは!」
「……一先ず…この妖を斬るぞ…!」
狐は刀を抜いて構えた、俺も狐の構えを見て、ハッとして構えた。
「…懐かしい匂いがするな……これはあの童の…仲間……貴様…蛇とやらか…!」
「……なに?」
ミノルさんの仲間の蛇……桜郎の話では蛇とやらは死んだと聞いているが……
「まぁ…蛇は死んだと聞く………死んだ者が生き返る事は無かろう…」
「……梅岡…構えろ」
「あ……ああ…!」
その刹那、狐は黒霧との距離を詰めて、斬りかかった。俺も続いて、飛び上がって上から殴りかかった。
「………フフ…フハハ…!!」
「……これは…ッ!?」
俺の拳が頭蓋を破壊し、狐の刀が黒霧を袈裟懸けで斬った。だが、数秒後には黒霧の身体は再生した。
「…エラトマ…とやらに神の力……アビスという力を貰ってな……半信半疑で取り込んでみたが…どうやら本物のようだ…」
「……お前も…アビスを…」
クソ、コイツもアビスを取り込んでやがるのか。だとすれば不死身だということだ、厄介だな。しかし、狐は驚いた様子を見せず、アビスの事を聞いて余裕そうにしていた。
「…ふむ……アビスか…なるほど…」
「ああ…我は……不死身…そして強大な力を手にしたのだ…!」
すると黒霧は俺の顔を見て、目的を話し始めた。
「……そうだ…我の目的を教えるのを忘れていた…」
「……………」
「我の目的は…梅岡…貴様の首を取る事だ…!」
「え…俺!?」
黒霧の仇はミノルさんと…自分を追放した騎士達の筈だろ!?……何故俺なんだ…
「…お前の首をミノルへ見せ……憤怒したミノルを殺す……ただ死んでほしいのではなく…怒りと…後悔と…己の無力を感じながら死んでほしいからな…!」
「……悪趣味なヤローだ…」
すると狐が、そんな黒霧に笑いながら言った。
「残念だが…それは無理だ……お主は某に…ここで斬られるのだからな…!」
「……なんだと…?」
狐は腰の鞘に刀を収め、もう一つの鞘から赤黒い瘴気を帯びた刀を抜いた。
「…神の力を手にした?……なら…屠るのは容易い…!」
その瞬間、俺の目にも黒霧の目にも留まらぬ程の速さで狐は黒霧を斬った。
「…なッ……傷が…!?」
黒霧の身体の傷は、再生していなかった。狐はそのまま、混乱する黒霧の首を刎ねた。
「……かッ…神…斬り…!?」
「…これで…三度目の…敗北だな…」
狐が神斬りに付着した血を払うと黒霧は淡く消えていき、魔素と炎のようなものを落とした。
「これは魔素で…これが……アビスか…?」
「…そのようだな」
俺は魔素と、炎を手に取った。炎は思ったよりも熱くなく、どちらかというと少しひんやりしていた。
「なんだよこれ…気持ち悪い感触だな……まるで虫の海の中に手を突っ込んでるようだ…」
「……それは王達にでも渡しておけ…」
それにしても、今の黒霧とアビスゴブリンとの戦闘で以前よりも集中する事ができるようになったようだ。しかし、まだ極限には程遠い。
するとそんな時、狐は神斬りを鞘に収め、その鞘を腰から抜き取った。
「…お主は…この神斬りを取りに来たのだな…?」
「あ…ああ!…そういえばそうだった!」
その瞬間だった、狐は神斬りの鞘を握って、居合斬りを俺に向かってしてきた。
「……うおッ…!」
俺はすぐさまバックステップで避けたが、一体何だ!?
「な…なんだよ!」
「……神斬りを持つには…それ相応の強さを持つ者でないと駄目だ…」
そして、狐は連続で居合斬りをしてきた。クソ…さばけない!……俺は数撃程食らってしまった…
「う…く…」
「……死ぬ気でこい…でなければ…死ぬ事となる…」
「………うッ…」
“本気で本気になれば勝負で負ける事は無い”
「…本気!……本気…」
だが、その時は突然訪れた。俺はさっきまで見えなかった連撃が、目に捉えられるようになっていた。
「…見え…る!?」
俺は連続居合斬りを全て避けていた、すると狐は少し驚いていたが、すぐに俺との距離を取った。
「……うむ…その強さなら良かろう…」
「…なんだと…?」
「………お主に神斬りを譲ろう…!」
狐は神斬りを鞘に収めて、俺に差し出した。
「…え……マジ…?」
「ああ…本当だ」
俺は狐の差し出した刀を受け取った……これが…神斬りか……神斬りはまぁまぁ軽く…鞘には謎の札が貼られており…黒と白の刃だった…
「……有り難く頂戴する…」
「…うむ」




