午後4時40分の十郎
「……起きたばかりなのに…もう次のページに行っちゃうの?」
「はい」
「結構…せっかちなんだね…!」
十郎は【乂文字】と【死神流】の書かれているページの次を開いた。
「…【死神の戯撃】……」
「ここからは…僕が創った業だネ!」
ミユキは十郎の開いているページを覗き込んで言った。
「……それでは…行きましょう」
「…ふふ……なんだか昔の自分を見ているようだなぁ…」
そう呟いたミユキを、十郎が不思議そうに見た。
「………え…?」
「いや…何でもないよ!」
……
「…さて…【死神の戯撃】か…」
体育館の中で、ミユキと十郎は向き合うように立った。すると、ミユキは説明し始めた。
「……この業は…【乂文字】の従兄弟みたいな業…要するに……似てるということさ!」
「…はい」
ミユキは幻影を生み出すと、幻影の方を向いて十郎に言った。
「…まぁ…見ててね!」
「はい」
その瞬間、ミユキは地面を蹴って飛び上がり、木刀を二回程振って着地した。着地して1秒程経つと幻影の身体に無数の切り傷ができて、幻影は倒れた。
「……【乂文字】よりも一撃の威力は低いけど…斬撃の数が二回から十回以上になっているのさ!」
「…なるほど……」
ミユキは木刀を指に乗せてバランスを取ると、再び十郎の方を向いて説明した。
「…【乂文字】は…威力が高いけど単体にしか使えない……だけど【死神の戯撃】は…威力が低いけど集団に使える…そこが違いだね」
「……対集団用ですね」
「そうそう!……それじゃあ集団用だと分かった所で…実際に集団に【死神の戯撃】をしてみようか」
すると今度は、無数の幻影を生み出した。その数を見てギルド戦士達も息を呑みながら見ていた。
「…やるよ…!」
ミユキがそう呟いた瞬間、幻影がミユキへ向かっていった。するとミユキは飛び上がり、一番近い幻影を攻撃して、身体を蹴った。
斬撃を繰り返して、幻影を蹴り、空中で舞うように幻影を斬り続けた。
「……うぉ…」
そして30秒後くらい経つと、ミユキの周りに誰もいなかった。
「…30秒程で……」
「スゲェ…」
「まぁ…集団にするとこんな感じだね!……君達にも教えようか?」
ミユキがギルド戦士達の方を見ると、ギルド戦士達はハッとして、鍛錬に戻った。
「……自分にはできないと…やりもせず…ハナから諦めてるんだ……やってみたら結構簡単なのになぁ…」
「…………」
「ということで!」
ギルド戦士達を見て呟いた後、ミユキは十郎の方を向いて笑顔で言った。
「……見た感じどうだった?」
「…ノートに書かれている事をやってみるよりも…実際に見た方が…分かりますね」
「………技を会得するのは見てみるのが一番いいからね……よし…それじゃあ…技の特徴とか言ってみてよ!」
ミユキに尋ねられ、十郎は【死神の戯撃】について話し始めた。
「はい……まず空中で不規則に飛び回り攻撃していた……それは相手を撹乱する為…」
「…………」
「そして無数の斬撃……それによって広範囲の相手を攻撃する事が出来る……特徴はその二つですよね…?」
「……ちゃんと分かってるようだね…!」
そして、ミユキは十郎に木刀を投げ渡した、十郎はそれをキャッチした。
「それじゃあ…いってみよ!」
「…はい!」
すると十郎の近くに複数の幻影が出てきた、十郎はその幻影達を少し見回した。
「………」
その時、幻影が十郎に向かってきた。十郎はミユキがやったように飛び上がると、一番近くの幻影に木刀を突き、体を蹴った。
「……うん…できてるね…」
『………さっきも思ったけど…やっぱり…僕と同類だからかな……まるで自分の弟か妹に教えてるような感覚になるのは…』
十郎はミユキのように、空中で舞うように幻影を斬っていった。その舞はミユキのそれに酷似していたが、ほんの少し違っていた。
ミユキとは違い、十郎が披露する【死神の戯撃】はどこか、淡い哀しみのような感情を帯びていた。ミユキは笑みを浮かべて、その光景を見ていた。
「…………終わりました…」
「…ぉぉ…すげ…」
ギルド戦士達は十郎を見て呟いた。そして、幻影が消えるとミユキは十郎を呼んだ。
「………もう残り二ページだけど…どうする?」
「……今日中にやりましょう」
「あはは!…すごい元気だね…!」
十郎が即答すると、ミユキは笑いながらノートを開いた。




