午後4時30分の十郎
宇川は、頭を下げている十郎に近付いて肩をポンと叩くと言った。
「…………俺はお前に【死神流】を教えてさっさと帰って寝たいんだよ!…さっさと顔上げろ!」
「…………はい…!」
十郎は顔を上げた、すると宇川は不敵な笑みを浮かべていた。
「よし!…そんじゃあ【死神流】…要するに俺たちの喧嘩のやり方を教えよう…!……まずはだな…」
「おいコラァ!!…宇川!!」
宇川が十郎へ【死神流】の説明をしようとした瞬間、空き地に数人の男が入ってきて宇川を睨んだ。
「あぁ!?…なんだよお前ら…!」
「……忘れたとは言わせねぇぞ…[武羅黒刃怒]…総長の樫木だ!!」
「ああ!…俺がこの間ぶっ潰したブラクバドの総長殿か!……バドミントンみてーな名前しやがって…アホンダラ!!」
樫木に向かって馬鹿にしたように宇川は言った。すると樫木は宇川に近付いて、上着を脱いだ。
「…テメー……もういい…気が変わった……ブッ殺す!」
「最初からブッ殺すつもりだったろうが…!」
すると宇川は、その光景を見ていた十郎に言った。
「丁度いい!…ついでに見せてやるよ!……ヤタガラス流を…な!!」
「お前ら!!…宇川の命奪るぞ!!」
「「おう!!」」
「へへ…こいよ!!」
樫木と仲間の男達は、宇川に向かって殴りかかった。しかし、宇川は防御も、避けようともしない。
「……オラァ!!」
「…死にやがれ!!」
ただ突っ立っている宇川を樫木と男達は必死に殴るが、宇川はピンピンしており、欠伸をしている。
「なッ……何なんだよ!!」
「……どうなってんだ…ッ!?」
「いいか!…ミユキ!……【死神流】ってのはなぁ!!」
宇川は息切れする樫木を思い切りブン殴った、樫木は吹き飛んでいって、置いてあったドラム缶に激突して。
「……相手をブチ殺す気でブン殴るんだよ!!」
そして、男の一人の襟を掴んで他の男達にぶつけた。そうしてあっという間に男達は倒れた。
「…まぁ……要するにだ…!」
袖を上げて、宇川は十郎の方へ歩いていった。宇川の右腕には、赤黒い蛇のようなアザが巻き付くように刻まれていた。
「……戦う時は相手をブッ殺すつもりで…ブン殴りゃあいいんだ!!」
「…そんな説明でよく【乂文字】を会得させる事ができたな……」
十郎と宇川が声のする方へ向くと、欠伸をするユウトと川畑が立っていた。
「…心配したから見にきたが……お前…ちゃんと教えろよ…」
「俺はちゃんと教えてるぜ!!」
「……ミユキ…【死神流】を造った俺が教えよう…」
……
十郎と宇川とユウトは、積み上げられている鉄骨の上に座って空き地の真ん中に立つ川畑を見ていた。
「……まずは構えだが…構えは……無い…」
「…構えは無いのですか?」
「ああ…自分の戦いやすい構えで良い…そして……」
川畑はその場で蹴り技を披露した。その蹴りは殺意を帯びて繰り出されており、荒々しく、恐ろしく、死神の鎌のようだったが、美しかった。
「……殺意を持って攻撃する…それだけだ…」
「お前も『教えよう』とか言った割には結構雑じゃねぇか…!」
そして川畑は十郎に続けて言った。
「…相手をどう狩るか…それをイメージする…そのイメージさえ浮かぶようになれば…【死神流】を扱える…」
「お…やった…!」
十郎がユウトを見ると、ユウトは人気アプリゲームの[アイドルプロジェクト]をしていた。
「へへへッ!…こんな時に[アイドルプロジェクト]をするか普通…!」
「……ミユキ…そういう事だが…出来そうか?」
「…………はい!」
川畑に尋ねられた十郎は、自信を持ってそう答え、空き地の真ん中へ歩いていった。
『なんだか…あの人達に教えてもらうと…不思議とどうすれば出来るかが分かる…』
十郎がナイフを振るうと、ヤタガラス達はそれをジッと見ていた。
「……殺意が込められてんなぁ〜…!」
「…ふむ……流石といったところか…」
……
「……素晴らしい…!」
「…ッ!?」
十郎が目を覚ますと、ベッドの上だった。起き上がると、横でミユキが拍手をしている。
「…………ここは…元の…」
「…まさかこんな早く会得するとはね!」
ミユキは興奮しているようで、真っ直ぐな眼差しで十郎を見つめていた。
「……これで【乂文字】と【死神流】が扱えるようになったネ!」
「…そうみたいですね……」
すると、十郎はテーブルの上に置いてあるノートを手に取って開いた。
「……起きたばかりなのに…もう次のページに行っちゃうの?」
「はい」
「結構…せっかちなんだね…!」
十郎は【乂文字】と【死神流】の書かれているページの次を開いた。




