午後4時30分の梅岡
「………はは……冷静に判断して…次の一手を考えるのは…案外楽だったな…」
俺はその場で座り込んだ、だが、何か足りないような気がして仕方がなかった。
『……冷静に判断して次の一手を考える…これは恐らく次の戦いでもできるだろう…だが…極限まで集中はできていなかった…』
冷静に判断して、次の一手を考えるという事はアビスゴブリンのおかげで出来るようになった。だが、集中力を手にする事はできなかった。
『まぁ…騎士墓廟には極限まで集中しなければ倒せないモンスターとかがいるらしいからな…そん時にコツを掴めるかもしれない…』
そして、俺は赤い森に向かって再び歩き始めた。
……
少し歩いていると目の前に赤い木が生い茂った森が見えてきた、あそこがミノルさんの言ってた赤い森か?
『……ゴーグルを…着けるんだよな…?』
俺は森の入り口まで歩いて行って、ゴーグルを装着した。すると視界が少し暗くなり、地面に青い足跡が見えた。
『この足跡が…洞窟への道しるべなのか…?』
地面に浮かび上がり、鈍く光る青い足跡を辿って俺は森の中へ進んだ。足跡は結構長く、見失いそうにもなったが俺は進んだ。
『……うん?』
足跡を辿って歩いていると、途中で足跡は消えていた。
『なんだ…?』
俺がゴーグルを外して前を見ると、そこには巨大な熊が寝ていた。どうやら、熊が足跡の上で寝ていたようだな。
『クソ……邪魔だな』
寝ている熊を起こさずに、避けて進もうとした瞬間に俺は熊の腹に目が留まった。
『……怪我…している…?』
熊の腹には爪で引き裂かれた痕のようなものがあった、熊は苦しそうにしている。
『…モンスターを倒してきた俺がこんな事するのもアレだけど……』
俺は倉庫からモンスター襲撃時に小鳥遊から貰っていた[ヒール瓶グレート]を取り出した。これは傷を瞬時に治す高価な回復薬らしい。
「……これを傷口にかける…痛かったらゴメンな…」
[ヒール瓶グレート]の瓶の中に入っている黄緑色の液体を熊の腹の傷口にかけた。熊は少し呻き声を上げたが、すぐに静かになった。
「…うおッ!」
そして俺が[ヒール瓶グレート]をかけ終わったその瞬間、熊の腹にあった傷はゆっくりと治っていった。
「ここまで効果あんのかよ…」
傷が完全に再生すると、熊は起き上がって腹を見ている。
「……よし…これで大丈夫だな………そんじゃあな…」
俺はゴーグルを装着して、足跡を辿っていった。少し辿っていくと気配、というよりも殺意を感じたので俺はゴーグルを外した。
「……ッたく…再戦か?」
ゴーグルを外した俺の目の前には、首無しアビスゴブリンが立っていた。
「あの熊をやったのはお前か……いや…斧ではあんな傷を付ける事なんてできないから違うか…」
その瞬間、アビスゴブリンは俺の目の前から消えた。だが、俺は至って冷静だった。
「へッ!」
背後からアビスゴブリンが水平に振った斧を、俺は両手で押さえつけて、腹に蹴りを食らわせた。
「……もう焦らねぇぜ…!」
あの冷静さとやらを手に入れたからか、俺は焦って攻撃を避けるのではなく、受け止めてカウンターを食らわせる事が出来るようになった。
「あの時の俺じゃあないぜ…!」
するとアビスゴブリンは再び消えた、俺はアビスゴブリンが消えた瞬時に前方へストレートパンチを放った。俺の拳はアビスゴブリンの胸に食い込んでおり、アビスゴブリンは膝をついた。
「背後かと思わせて目の前にいる…もう引っかからねぇぜ!」
俺はそのまま両手のラッシュを食らわせた。そしてトドメのストレートパンチを食らわせると、アビスゴブリンは木にぶつかって動かなくなった。
「……やったか?…だとしたら魔素を落とす筈だが…アビスの個体は落とさないのか…?」
動かなくなったアビスゴブリンに近付いてみると、勢いよく起き上がり俺に掴みかかってきた。
「…フンッ……!」
俺はそんなアビスゴブリンの掴みを飛び上がって避け、空中からかかと落としを繰り出した。
「……【空斧】…!」
かかと落としを食らったアビスゴブリンは倒れて、粒子と化した。粒子の中には俺が投げ捨てた鉱石があった。
「…………もう起き上がらないでくれよ…」
俺は鉱石を踏み砕いた、すると鉱石はガラスのような音を立てて壊れた。
『………それじゃあ…先へ進むか……』
再度鉱石を確認した後、俺はゴーグルを装着し足跡を辿っていった。




