午後4時20分の十郎
『…これはミユキさんが宇川さんに【乂文字】と【死神流】を教えてもらう記憶でした…という事はこれからそれらを教えてもらう事ができる…という事ですね…』
「今日は【乂文字】と…【死神流】だったな〜……名前が厨二臭いぜ〜!…お前もそう思うだろ!……ミユキ!」
「え?」
十郎は近くのガラスを見た、すると自分の姿はミユキになっていた。
「……ミユキさんに……あっ…」
「んだよ…どした?」
宇川が不思議そうに十郎の顔を覗き込んだ。
「な……なんでもありません!」
「……?…そか」
そして、十郎は再び宇川についていくように街を歩いた。
『…記憶の中に入るというのは……自分自体が記憶の中へ入るというわけではなく…自分の意識だけがその記憶の中へ入る…』
宇川についていきながら、十郎は少し考えていた。
『……意識が記憶の中へ…そして…その記憶の出来事を体験した人に意識が入る…という事ですか…』
「…空き地が近くで助かるぜ!」
十郎がそんな事を考えていると、宇川が十郎に言った。
「おい!…何ボーッとしてんだ!……着いたぞ!」
宇川の声を聞いて十郎が前を向くと、野球ができるほどの広さの空き地が広がっていた。
「……よし!…んじゃあ早速やるか!」
「はい」
そして、宇川と十郎は空き地の真ん中へ立った。
「…………何するんだっけ?」
「…【乂文字】という技と【死神流】を教えてくださるのですよね?」
「あー…そうだったな!」
宇川は頭を掻きながら、近くにある置いてあった看板を目の前に設置した。
「……壊れたから捨てようとしてる看板を貰ってきた!……まずはこれを使って【乂文字】を魅せてやる!」
「…………」
看板から少し距離を取って宇川は立った。そして、看板に向かって手刀を斜めに振った。すると看板にバツ印に切れており、バラバラになった。
「…ぉぉ……」
「まぁ…こんな感じだ」
そして新しい看板を立てて、十郎に言った。
「……やってみな!」
「…は……はい…!」
十郎は「多分できないだろうな」と思いながらも看板から少し距離を取って立った。すると宇川がハッとして言った。
「言い忘れたが……手刀じゃなくても大丈夫だぜ!」
宇川はそう言って十郎にナイフを投げ渡した。そのナイフはミユキが使っていたものと全く同じものだった。
「……手刀でやろうが武器でやろうが…威力は変わらんからな!」
「…分かりました」
十郎はナイフを構えて、看板をジッと見つめた。そして、ナイフを斜めに振った。
「………珍しいな!…お前が一目見てできないのは!」
「……………」
予想通り【乂文字】はできず、看板は斜めに切断された。
「…どうすればできます?」
「……アドバイス的なヤツか…うーむ…」
宇川は十郎にアドバイスを求められ、少し考えるような素振りを見せた。そして、十郎の方を向くと言った。
「…まずは……腕に力をぐーっと溜めて…その後にブェァァァン!ってする!」
「……そんなオノマトペばかりのアドバイスでは分かりかねます…!」
「要するに…腕に力溜めてソレをブッ飛ばすように振れやバカヤローってこった!」
十郎は宇川のアドバイスを聞いて「そんな単純にできるのか?」と半信半疑だった。
「……そんな単純なやり方で出来るものなのですか…?」
「まぁ…やってみろよ!……出来るかもしれねぇぞ?」
「……………」
半信半疑のまま、十郎は宇川の立てた新しい看板の目の前に立った。
『…腕に…力を……』
十郎は宇川の言った通り、まず腕に力を溜めた。
『……そして…その力をブッ飛ばす?……思い切り振ればいいのかな…?』
そして、力を放出するように思い切りナイフを斜めに振った、しかし看板は何ともない。
「…こんな単純なやり方ではできませんよ……」
「できてるじゃねぇか」
「……え…?」
十郎が看板の方を向くと看板はバツ印に切れ、その場でバラバラになった。
「出来…た…?」
「…ほらな?……深読みなんてすんな!…技のやり方なんて…単純なもんだ…!」
「………すいません…疑って…」
すると宇川は、頭を下げている十郎に近付いて肩をポンと叩くと言った。
「…………俺はお前に【死神流】を教えてさっさと帰って寝たいんだよ!…さっさと顔上げろ!」
「…………はい…!」
十郎は顔を上げた、すると宇川は不敵な笑みを浮かべていた。
……
「…いい子だね……そのまま【死神流】も覚えるんだよ…!」
眠っている十郎の頭を撫でながら、ミユキは体育館でギルド戦士達の特訓を見ていた。
「……あ!」
その瞬間、ミユキと眠る十郎の方へ木刀が飛んできた。
「…………危ないなぁ…」
「すいません!」
「……気を付けなよ…!」
ミユキは飛んできた木刀を掴んで、小走りしてくるギルド戦士に投げ渡した。
「…ここは危ないから……部屋へ行こうか」




