午後4時20分の梅岡
「…しかし……『本気で本気になる』状況に追い込まれる事なんてあるのか?」
「……今から俺が言う事をすれば…嫌でもその状況に追い込まれるさ」
不敵な笑みを浮かべてミノルさんは言った。
「……何をするんだ?」
「…………ゲームでよくある“おつかい”だ…」
「…おつかい……」
ゲームのおつかいという事は『〇〇から〇〇を取ってこい』とか『〇〇にある〇を取りに行け』みたいなヤツか?
「…何か取りに行ってこいって事か?」
「その通り…今からお前には……この騎士墓廟の最奥に安置されている刀を取りに行ってもらう」
「刀だと?」
「……ああ…俺が神殺しで使った樹一郎さんの刀だ」
あの話に出てきた、神殺しの刀か。そして、ミノルさんは地図を広げた。
「……道に迷うといけないから一応…説明しておく」
「親切だな」
ミノルさんは地図を地面に置いて、説明し始めた。
「…まずは俺から見て…前へ進む……そうしたら赤い森が見えてくる筈だ…」
「……ああ」
まずはミノルさんから見て前へ進んでいき、赤い森へ行く。
「赤い森に着いたら……このゴーグルを着用しろ……そうすれば洞窟への道が分かる」
「赤い森の中にある洞窟へ行くんだな」
「ああ」
赤い森に着いたら、ゴーグルを着用して洞窟を探すらしい。
「……そして洞窟を抜けると…ゴーストタウンがある筈だ…その街は[旧タリカ市街]という名だ…」
「旧タリカ市街ね…」
洞窟を抜けてゴーストタウン、旧タリカ市街に出る。
「旧タリカ市街を進んでいくと…大きな神殿が見える筈だ…それが騎士墓廟だ」
「…道は分かった……」
騎士墓廟までの道のりを聞いた後、俺はミノルさんに気になっていた事を尋ねた、
「……そのおつかいで…『本気で本気になる』状況に追い込まれんのか?」
「ああ…強力なモンスターがいるからな」
やはりモンスターがいるのか……だが…俺は一応危険度SSSのモンスターを倒せたし…『本気で本気になる』状況に追い込まれる事なんてあるのか?……するとミノルさんはそんな俺に言った。
「…騎士墓廟までの道ではそこまでてこずらないだろう……だが…騎士墓廟に巣食うモンスター達は別格だ……恐らくお前の想像以上の強さだろう」
「………肝に命じておくよ」
俺は一通りの話を聞いて立ち上がった。
「…それじゃあ早速行ってきますわ!……すぐに刀持って戻ってきますよ!」
「……そうか…」
そして、俺は地図とゴーグルを持って赤い森のある方角へ歩いていった。
「………もしこれで…梅岡が集中力を手にしなければどうする…?」
「……そんな時は…俺が試合を申し込んで殺す気で梅岡と戦う…そうすれば集中力を手にするだろう…」
「……………」
「……まぁ…そんな事…無いだろうがな…」
……
「……一人旅か…」
俺は赤い平原を一人で歩きながら呟いた。周囲からは風の音や、木の揺れる音しか聞こえない。
『…なんだか……十郎がいないと物足りなさがあるな…ここに来てから十郎と二人で行動していたからかな…』
少し歩いていると背後から気配を感じ、俺は振り向いた。
「お…お前は!?」
そこには斧を振り上げる、首の無いアビスゴブリンが立っていた。クソ、コイツは倒した筈なのに!?
「……くッ…!」
俺は斧を避けて、構えた。何故生きている…粒子になった筈では……
「…今は考えている時間は無いな……なぁ…アビスゴブリンよ!」
その瞬間、アビスゴブリンは俺の目の前から消えた。背後か!?
「……ッ!?」
しかし、背後にはいなかった。なんだ…このデジャブは!?……そんな時…俺の脳内に伍城さんの言葉が響いた。
“…一つ……どのような状況で襲われようともすぐさま対応できる集中力…”
“………二つ……相手が自分の予測と反した動きをしようとも動揺せず…次の一手を考える冷静さ……”
“……その二つを持つ事ができれば…童だろうと強くなれる…”
『……考えろ…!……そして集中しろ!…俺!!』
その刹那、俺は振り下ろされた斧を避けてカウンターをしていた。
「……これは…」
アビスゴブリンはそのまま斧で攻撃してくるが、不思議と俺は予測できた。
「見える…視えるぞぉ!!」
そして、カウンターでラッシュを食らわせた。アビスゴブリンはその後、傷だらけで瞬間移動で何処かへ逃げた。
「………はは……冷静に判断して…次の一手を考えるのは…案外楽だったな…」
俺はその場で座り込んだ、だが、何か足りないような気がして仕方がなかった。




