午後4時の十郎
「……さてさてさーて…」
「……………」
十郎とミユキは体育館に来ていた。体育館では筋トレ、剣術の稽古などの鍛錬をしているギルド戦士ばかりだった。
「…とりあえず……どの辺まで出来るの?」
「……このページから先に書かれている技が…なかなか上手くできないのです」
「ほうほう」
ノートの最後のページから数ページ程前のページを十郎は指した。そこには【乂文字】と【死神流】と書かれていた。
「………それじゃあこのページから始めていこう…まずは【乂文字】か…」
「はい」
「…どんなだったっけ…………あぁ!…あの必殺技的なヤツか!」
ミユキは思い出したかのように手をポンと叩いた。
「…この【乂文字】はヤタガラスの使う必殺技の一つさ!……確か…こうだったような…」
木刀を持って、ミユキは周囲に誰もいない事を確認して人型の幻影を生み出した。そして、木刀を斜めに振った。その瞬間、幻影をバツ印の赤い斬撃を食らって幻影は消えていった。
「………知ってると思うけど…これは単純に…一度に二回斬る業だよ…」
「…はい」
「十郎君はこれができないんだね」
十郎が頷くと、ミユキは木刀を十郎に投げ渡して壁際に歩いていくと座った。
「まぁ…とりあえずやってみなよ」
「はい」
ミユキが見ている中、十郎は木刀を持ってミユキの生み出した幻影を見つめていた。そして……
「……ッ!」
斜めに木刀を振った、幻影は斬撃を食らって消えていったが、十郎のは斜めの赤いバツ印の斬撃ではなく、ただの斜めの斬撃だった。
「……やっぱり…できないですね…」
「…あー……」
ミユキは十郎に手招きした、十郎はミユキの側へ近付いた。
「まぁ…座って」
「…はい」
十郎がミユキの横へ座ると、ミユキが十郎へ言った。
「アドバイスしよう!…と思ったけど……そもそも僕がこのページを教えるよりも…師匠に教えてもらった方がいい…この【乂文字】と【死神流】はね」
「……師匠…?……宇川さん…の事ですか?」
「うん!」
すると、十郎は不思議そうにミユキに尋ねた。
「…宇川さんは……今ここにいるのですか?」
「……分からないけど…多分いないと思う」
「それでは…この世界にいない宇川さんに…どうやって教えてもらうのですか?」
十郎がミユキに尋ねると、ミユキは笑みを浮かべて答えた。
「…僕の記憶の中に入ればいいのさ!」
「………記憶…?」
「うん!」
ミユキはポカンとする十郎に記憶の中に入るという事を説明し始めた。
「……君は今から…僕の記憶の中へ入ってもらう…」
「………はい…」
「…その記憶ってのは…君が『できないから教えて!』と言っている業を僕が会得しようとしてる時の記憶さ」
十郎は静かにミユキの話を聞いていた。
「……まぁ…要するに……『今から僕の師匠が十郎君のできない事の一部教えてくれるよ!』…って事!」
「…一部?」
するとその時、ミユキは十郎の手を握って額と額をくっつけた。
「…【乂文字】…【死神流】は記憶の中の師匠が教えてくれる……残りは…無事にその二つを会得できれば僕が教えるよ!」
「……ッ!」
「………【記憶共有】…」
その直後十郎の視界がぼやけ始め、暗くなってきた。
「それじゃあ…記憶の中へ……行ってら〜!」
「……!!」
……
「……うッ…」
「お!…起きたか!」
十郎が起き上がるとそこは部屋の中で、ボサボサの髪の青年、天然パーマでアニメのTシャツを着た青年、中性的な外見の青年がいた。
「……ここ…は…」
「な〜に寝ぼけてんだよ!」
ボサボサの髪の青年が十郎の肩をポンと叩いて言った。
「…あなた達は…?」
「……マジでどうしたお前…」
すると、天然パーマの青年が心配そうに近付いてきた。
「………俺は勇兎で…この天パが宇川…あの女みたいなのが川畑だろ…?」
「天パはお前もだろ…!」
「誰が女だ」
それを聞いて、十郎は先程までの事を思い出した。
『…そういえば…僕はミユキさんの過去の記憶へ……だという事は…この人達が…ヤタガラス…!』
「……記憶喪失とかいうヤツか?」
「変なもんでも食ったか?」
三人は十郎を心配そうに見たが、十郎は笑顔で答えた。
「いえ…どうやら寝ぼけていたようです!」
「なんだよお前…なんで敬語なんだ?」
「まぁいいだろ!…オラ…さっさと行くぞ!」
宇川が張り切った様子で玄関へ歩いていった。
「…何処へですか?」
「何処って……お前に気に入らん奴をぶっ殺す方法を教える為に空き地へだよ!!」
「あぁ…そうでしたね…」
「行ってら〜」
そして、十郎は宇川についていきながら考えていた。
『…これはミユキさんが宇川さんに【乂文字】と【死神流】を教えてもらう記憶でした…という事はこれからそれらを教えてもらう事ができる…という事ですね…』
「今日は【乂文字】と…【死神流】だったな〜……名前が厨二臭いぜ〜!…お前もそう思うだろ!……ミユキ!」
「え?」




